道具としてのファイナンス

道具としてのファイナンス

道具としてのファイナンス


[内容]

使えるファイナンスの知識をエクセルを随所に用いて解説



[感想]
内容が多い!今まで触れたことのない分野だったので非常に参考になった。国債や株、オプションの価格にこんなに理論的背景があるとは知らなかった。プロジェクト決定の際のキャッシュフローに関する簡単な理論武装にも使えるだろう。会社が新入社員に簿記を習わせる意味が少し分かった気がした。つまり、企業としての進むべき道(企業価値向上)を常に頭において置けよ、というメッセージ。


[概要]

1章 投資に関する理論

ファイナンスの役割

    1.投資の決定

    2.資金の調達

    3.配当政策

これらにより、企業価値の最大化



現在価値(PV)

    n年後に受け取るX円の現在価値、割引率r%ではX/(1+r%)^n

r :ディスカウントレート



資産の価値は、その資産が将来生み出すキャッシュフロー(CF)の現在価値の合計

    例:毎年永久にC円受け取る永久債の現在価値PV=C/r

求め方

    1.それぞれのCFについて計算

    2.PV関数(各年のCFが同じ場合)

    3.NPV関数(各年のCFが異なる場合)

割引率には、そのリスクの程度と期間に照らして妥当な金利を選ぶ。

    同程度リスクと見られる債権、株式などのリターンを参考に

    正解はないので、実務では感応度分析を行う



投資判断:正味現在価値(NPV)

    NPV=将来発生するCFのPV-初期投資額

    エクセルのNPVとは違うので注意

    NPV>0なら企業価値が向上するプロジェクト



その他の投資判断

    1.資金回収期間ルール

        資金回収期間=投資額 / 年間キャッシュインフロー

        回収期間があらかじめ設定した基準年数を下回るか



    2.収益性インデックス(PI)

        PI=キャッシュ・インフローの現在価値/キャッシュ・アウトフローの現在価値



    3.内部収益率(IRR)

        IRR=NPVがゼロになる割引率

        IRR関数、ゴールシークで求めることができる

        IRR>rなら企業価値向上プロジェクト

        ただし、プロジェクト比較の場合には、両方のリスク度合いが同程度である必要がある。

       IRRの弱点

           ・プロジェクトの大小を反映しない

          ・内部収益率が複数存在したり、階が存在しない場合がある
         ・プロジェクト期間中のrの変化に対応できない



NPVとIRRでプロジェクト順位が異なる場合⇒NPVを優先する

    収益率を高めることが目標ではなく、企業価値を高めることが目的だから。



資本制限がある時のプロジェクト選択

    ダミー変数(0-1)を使い、

    ツール→アドオン→ソルバーを使う

    ※線形モデルで計算(M)、非負数を仮定する(G)にチェック

    ※ダミー変数を整数に制限することもできる



プロジェクト期間が異なる時のプロジェクト選択

    期間をそろえる必要あり⇒年金等価額

        年金等価額=NPV / PV関数(r,N,-1)

        N:プロジェクト期間年数



With-Withoutの原則

    プロジェクトのCF=プロジェクト実施時のCF-プロジェクト未実施時のCF

    今の時点でコントロールできないCFは無視しなくてはならない。(埋没コストに惑わされるな)

    
新たに発生するコストのみをキャッシュフローの予測に含める。



減価償却には節税効果がある。

    減価償却した後に税金が掛かるため



ワーキングキャピタル=キャッシュの回収と支払いのタイミングのズレの埋め合わせ

    ワーキング・キャピタル=流動資産-(流動負債-短期借入金)

              
             
=売上債権(売掛金受取手形)+在庫-支払債務(買掛金・支払手形)



資金調達コストは割引率に加味することで考慮する。



2章 証券投資に関する理論

リスク=不確実性

正規分布=N(μ、σ^2)

    μ:平均、σ^2:分散

    平均±σ : 68.26%

    平均±2σ : 95.44%

    平均±3σ : 99.74%



変動関数(CV)= σ/μ (%)

    ばらつき度合い(来年度の標準偏差)を予測できる



共分散(Cov)の求め方

    1.それぞれの株式の偏差(リターンと平均値の差)を掛け合わせる

    2.それらを掛け合わせたものの平均値を算出

    共分散は正負が大事、相関関係の強さは表さない

    COVAR関数で求められる



相関係数a,b)=Cov(ra,rb)/σa・σb

   
σa・σb:raとrb標準偏差

    CORREL関数で求められる



ポートフォリオによる分散投資

ポートフォリオの期待収益率

    E(rp) =WaE(ra)+WbE(rb)
=WaE(ra)+(1-Wa)E(rb)

ポートフォリオの分散

    Var(rp) =Wa^2Var(ra)+Wb^2Var(rb)+2WaWbCov(ra,rb)




ポートフォリオの組み入れ比率によるリスクとリターン

   



    AとBの組み入れ比率を変化させるとこのような曲線になる。

    グラフの上半分を効率フロンティアと呼ぶ。

    上半分から、許容できるリスクを選ぶ。



ポートフォリオの分散は次のように変換できる

    Var(rp) =Wa^2・Var(ra)+Wb^2・Var(rb)+2Wa・Wb・ρa,b・σa・σb

   





さらに、リスクフリー資産を組み込むことで、最適なポートフォリオ(資本市場線)が引ける。

   





シャープレシオ=リスクプレミアム / ポートフォリオのリスク(標準偏差

    資本市場線の傾き=シャープレシオ



株式のリスク=市場リスク+個別リスク

    ポートフォリオのリスクは市場リスクを下回らない。



β=市場全体のリターンが1%変化したときのその株式のリターン (市場全体に対する感応度)



βとリスクプレミアムの関係:CAPM(資本資産評価モデル)

    全ての資産のリスクプレミアムは、資産のβに比例

    
E(ri)-rf=βi[E(rm)-rf]
   資産iの期待リスクプレミアム=
βi×マーケット・リスクプレミアム

    この直線を証券市場線(SML)という。

   





3章 企業価値評価

資本コスト(加重平均資本コスト:WACC)=債権者や株主に支払うコスト

      =株主のリターンと債権者のコストの加重平均

    資本提供者に応えるための最低限の収益率

    ハードルレートや割引率に使われる(但しh、プロジェクトが現行事業と同程度のリスクの場合のみ適用可)
株主は収益の配分を受ける順番が最後⇒リスクに見合うリターンを求める(株主資本コストはより高い)

    WACC = re × E/(E+D) +rd(1-Tc) × D/(E+D)

       re:株主資本コスト

      
rd:負債コスト

       E:株主資本(時価

       D:負債(原則時価

       Tc:実効税率

   
負債コストに(1-Tc)を掛けるのは、利息が税務上、損金に計上され、節税効果があるから。

    負債は実務上簿価で代用

    実効税率は1円の追加課税所得に対する税金額



株主資本コストの求め方に正解はない⇒一つの手段としてCAPM

       βの問題点

          ・最低5年のデータは欲しい

          ・リターンの間隔(実務上は月次、週次)



フリーキャッシュフロー(FCF):事業活動の後、資金提供者の株主・債権者に自由に分配できるCF

    FCF=EBIT(1-税率)+減価償却費−設備投資−ワーキングキャピタル増加額

           
 EBIT:営業利益

    FCF=NOPAT+減価償却費−設備投資−ワーキング・キャピタル増加額

             
NOPAT=営業利益−法人税

    企業が営業活動からどれだけのキャッシュを生み出せるのかが分かる。



企業価値評価とDCF法

企業価値(EV)=株式時価総額+ネットデット(実行有利子負債)

未上場企業の価値算定は?

    ⇒DCF法

DCF法:企業価値=企業が将来生み出すCFの現在価値の合計(割引率はWACC)

    1.WACC計算

    2.FCF計算

    3.継続価値(収支予想期間の最終年度での会社の価値)を求める

       継続価値=予測期間の翌年のFCF/ (WACC-FCFの成長率)

    4.FCFと継続価値をWACCで現在価値に割引、事業価値を求める

    5.土地・有価証券・現金などの遊休資産を時価評価し、非事業価値を求める

    6.4.と5.を足して、企業価値を計算

    7.企業価値から負債額を控除して株式時価総額を求める

    8.発行済み株式総数で割って、理論株価を求める

これらのパラメータ(FCF成長率、WACC)の感度分析を行う。



どうすれば企業価値が高まるか?

⇒FCFを増加させる

    ・EBIT増加と税率引き下げ

    ・減価償却費の形状タイミング

       支払いは遅らせる方がお得

    ・投資の選別

    ・WCの管理

       売上債権と在庫を圧縮し、支払い債務を大きくする(支払いを遅らせる)

    ・WACCの低下

       IR活動による負債コストの低減
経済的付加価値(EVA):株主コストを考慮した⇒を上げる


    EVA=NOPAT(税引き後営業利益)-資本コスト
         =NOPAT-投下資本×WACC
         =(ROIC−WACC)×投下資本
         ※ROIC=NOPAT÷投下資本 : 投下資本利益率
    ⇒資本コスト以上の税引後営業利益で企業価値
    =WACCを上回る投下資本利益率


 
4章 企業の最適資本構成と配当政策

ROA:(Return on Assets
総資産利益率)=利益÷(負債+株主資本)

ROE:(Return on Equity 株主資本利益率)=利益÷株主資本



ROEは負債を増やせば増える

財務レバレッジ:負債比率(負債÷株主資本)

   ・ROEを増やせる

    ・ROEのばらつきが増える



MM理論(最適な資本構成とは?)

税金や取引コストなしの完全資本市場では、資本構成は企業価値に影響なし

⇒実際は税金などあり(負債の節税効果)

    VL=VU +TcD
      
VL:負債有会社の企業価値
      
VU:負債無会社の企業価値
      
Tc法人税
      D:負債額

⇒実際は負債にはリスクがある
   
VL=VU+ TcD − 財務破綻コストの現在価値
    負債の節税効果と財務破綻コストのトレードオフ(資本構成のトレードオフ理論)
⇒財務破綻コスト

    ・エージェンシー・コスト

    ・株主と債権者の利害対立(立場が違えばNPVは異なる)



ペッキングオーダー(資金調達の順番:最適な資本構成などない)

    内部留保→銀行借入→普通社債転換社債普通株式



資本の選び方:余計なリスクを防ぐため期間に合った資金調達を。



5章 資本市場に関する理論

利回り=投資元本に対する収益率(変動有り)

利率=債権額面に対する利息率(変動無し)



直接利回り=年利率/購入価格

単利最終利回り=(年利率+(額面-購入価格)/残存期間 ) / 購入価格

    インカムゲイン+償還差損益を考慮



割引債(利息なし債権)の利回り

    単利の時:((額面−購入価格)÷購入価格) / 残存期間

    複利の時:(額面−購入価格)^(1/残存期間)-1



債権価格=キャッシュフローの現在価値の合計額

   金利により価格が変化:金利増→債券価格減

複利最終利回り

   債権購入〜満期まででキャッシュフローの現在価値の合計がゼロになる金利

    内部収益率と同じ



債権のリスク

    ・信用リスク

       格付(S&Pムーディーズなど)で利率は異なる

       効率的市場では、社債国債の期待収益率が同じになるように裁定が働く

    ・価格変動リスク

       キャピタルゲイン国債も不可避

    ・流動リスク



イールドカーブ(割引債の利益率vs.期間のカーブ)の形に関する理論

    1.純粋期待説

      
長期でも短期でも収益に同じになるように裁定が働く(複数年の金利は単年の幾何平均になる)

        これにより、イールドカーブから短期金利がどうなるか、の市場予測が分かる

    2.流動性プレミアム仮説

       長期・短期の価格変動リスクの違いを考慮

       この仮説では長期より短期が好まれる

    3.市場分断仮説

       長期債権の市場と短期債権の市場は関係ないと考える



株価の理論

    株価=将来の配当を株主資本コストで現在価値に割り引いたもののの合計

        =Div1 /(rE-g)
      
Div1:初年度配当
      
rE:配当成長率
       g:株主資本コスト



6章 デリバティブの理論と実践的知識

先物取引

代金決済は取り決めた特定期日に行われる

取引所はカウンターパーティーリスク(相手先の信用リスク)を肩代わり

証拠金を納め、毎日値洗い(決済)を行うことで健全化



スワップ取引

1.金利スワップ

    金利変動リスクを回避するため、固定金利と変動金利キャッシュフローを交換する取引

    元本は交換せず、金利のみ交換

2.通貨スワップ

    進出先での信用の低さをカバーするため、お互いの国の通貨をスワップ



オプション





いくら株価が下がっても、プレミアム以上に損はしない。

権利行使で損:アウトオブザマネー(OTM)

権利行使で得:インザマネー(ITM)



OTMでも株価変動の可能性から、

オプションの価値=本質的価値+時間価値



プットコール・パリティ

    コールの価格+権利行使価格の現在価値=株式の価格+プットの価格



オプション価格決定

1.二項モデル

    1期後の原資産の価格シナリオを2通り考える。

    その2通りの場合どちらでも、株と負債の組み合わせがオプションの価格変動と同様になるように、株:負債比率を決定。

    オプションの価格=株式価格−負債額

2.オプション価格=行使する確率×行使した場合の利益



転換社債ワラント

転換社債:普通は社債、株価上がれば株に転換できる

転換社債の価値=max(普通社債としての価値、転換価値)+オプションの価値

急成長、キャッシュフローが潤沢でない新興企業に最適



ワラント債:あらかじめ決められた一定の価格で株式を購入できる権利(ワラント)の付いた社債



7章 ブラック=ショールズ・モデル

C=So N(d1) - X e^(-rT) N(d2)

d1= ( ln(S0/X) + (r+σ^2 /2)T ) / (σ√T)

d2= d1 - σ√T



    C:コールオプションの価格

    S0:現在の株価

    X:権利行使価格

    T:満期までの期間

    r:リスクフリーレート

    σ:ボラティリティ

    N(x):累積分布関数  excelのNORMDIST関数



ボラティリティ

1.ヒストリカル・ボラティリティ

    過去の実績値

    ボラティリティ(年次)=√12 ×ボラティリティ(月次)

   =√52 ×ボラティリティ(週次)

   =√252 ×ボラティリティ(日次)

2.インプライド・ボラティリティ

    ブラック=ショールズ・モデルから計算されるボラティリティ

    excelのゴールシーク機能を用いる

    使い方1)

      特定原資産に関するオプションが多数ある場合、取引量の多いオプションからこれを計算し、取引量の少ないオプションの理論価格を計算

    使い方2)

      インプライド・ボラティリティ<<ヒストリカル・ボラティリティ ならそのオプションは買い

      インプライド・ボラティリティ>>ヒストリカル・ボラティリティ ならそのオプションは売り



リアルオプション

実際にプロジェクトを進めるに当たって、途中にオプションを設けることで、そのプロジェクトの価値(NPV)をより詳細に決定できる。

・タイミングオプション(本格投資を延期できるオプション)

・成長オプション(高い成長が見込める市場に早期に参入できる)

・段階的オプション(段階的に投資し、評価しながら続行、中断できる)

・撤退オプション



プロジェクトの価値=NPV+リアルオプションの価値



ブラック氏=ショールズ・モデルを用いる場合、

    原資産価値=プロジェクトが生み出すキャッシュフローの現在価値

    権利行使価格=投資を行うコスト、原資産を得るために支払ったコスト

    リスクフリー・レート=プロジェクトの期間にあったもの

    満期日=オプションを行使するかを決める期日

    ボラティリティ=プロジェクトのキャッシュフローの変動率(過去の、他社の類似プロジェクトから決定)