自己啓発書はなぜ人生を変えないのか?―『仕事の哲学』P.F.ドラッカ

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前回、前々回で紹介したドラッカー本の続きです。今回で本書の紹介は最後です。


ドラッカーが教える最も効果的な成長法 ー 『仕事の哲学』P.F.ドラッカー - ゲッティング・ベター
意味のないインプットを止めるー 『仕事の哲学』P.F.ドラッカー - ゲッティング・ベター


自己啓発書で人生変わった人っているの?
自己啓発書は私も読みます。筆者はなぜかテンションが高いことが多く、元気がないときに読むと圧倒されて、しかも文章のうまい本だと、なんだか自分がなんでもできる才能のカタマリのような気がしてきます。


しかし、一週間も経つと本の内容も忘れ、心に大きく膨らんだはずの野心もしぼんでしまうことがほとんどです。一瞬だけ元気になるビタミン剤のようなものです。今回紹介している『仕事の哲学』もいわば自己啓発書です。本書も一週間経てば忘却される予定でしたが、本書の中に『なぜ自己啓発書は人生を変えないのか?』に対するヒントがあったので紹介します。


事実からスタートしてはならない
人が何かをしようと決定する際、よく言われるアドバイスとしては「事実を分析してスタートしなさい」というものがあります。勝間和代さんの著作『起きていることは全て正しい』など、事実にこだわる人は多いです。しかし、ドラッカーは正反対のことを説いています。

最初から事実を探すことは好ましくない。すでに決めつけている結論を裏付ける事実を探すだけになる。見つけたい事実を探せないものは居ない。


つまり、自分の決定を擁護してくれる事実からスタートしてはならない、ということです。インターネットで探せば大抵の知りたい事実が見つかる現代にはまさに当てはまる言葉です。

例えば大企業を辞めて起業を目指そうと言う人を擁護してくれる記事もあれば、大企業で働く方が良いと言う人を擁護してくれる記事もあります。以下の二つの記事はどちらも説得力があります。


2010-03-09
失敗ができる国、日本 : けんすう日記


自己啓発書においても同様のことが言えます。自分の希望を擁護する本を読んでしまうから自己啓発書は人生を変えません。小さなことに悩んでしまう人は「悩む力」という本を見つけたら、「そうか!悩んでも良いんだ!」と思いその本を手に取ってしまいます。小さなことで悩むことは悪だ、という可能性を無視するようになってしまいます。

悩む力 (集英社新書 444C)

悩む力 (集英社新書 444C)


それでは事実からスタートできないとしたら、何を判断基準にして意思決定すれば良いのでしょうか?自分を擁護してくれる事実以外も公正に評価する必要があります。これにもヒントがあります。


意図的に意見の不一致を作り上げる

成果をあげる者は、意図的に意見の不一致をつくりあげる。そうすることによって、もっともらしいが間違っている意見や、不完全な意見によってだまされることを防ぐ。


会議や単なる会話では話の流れがあって、「大方みんなこの意見に賛成」という雰囲気になると、反対意見が言いにくくなります。特にめんどくさい会議など早く終わらせたい場合は、もうそっちで良いよ!となりがちです。反対意見を言う人は空気の読めない人になってしまいます。しかし、本当に公正な事実を掴むには、一度反対意見を募う流れを作り出さなくてはなりません。


これは会議でなくとも、個人でも同じことが言えます。自分一人で物事を決めようとすると、悩んで人に相談するとしても大体相談する前から自分の中で結論を出してしまうものです。みなさんも同じ経験があると思いますが、これは反対意見を本で読む努力をしても、ネットで反証記事を探す努力をしても自分の意見は変わりません


私が自分の意見を変えるのに最も効果的だと思うのは、自分と反対意見を持つ人に説得してもらうことです。しかもちょっと苦手だけど尊敬できる人に説得してもらうことです。苦手な人は人間の根本が違うので大体自分と違う意見を持っています。しかし尊敬できる人なら、その人の意見を頭から否定することなく真摯に聞くことができます。私にとってちょっと苦手だけど尊敬できる人は友人に2人と学生時代の先生に一人います。私なら彼らに相談します。


嫌な人に会うと勉強になる。 - 原左都子エッセイ集
http://blog.livedoor.jp/kensuu/archives/50784445.html


最後に
あえて嫌いな人にあう、嫌いなことをする、嫌いな本を読むというのはとてもエネルギーが要ります。しかし、それが自分の好きなことをするのに役立ってくれると考えれば、エイやっ!と行動するのは難しくない気がします。心地いいなぁと思う瞬間があったら要注意ですね。物事をカンペキに公正に見ることは不可能ですが、思い切り反対にハンドルを切って自分を見直してみることにします。