もう、君には頼まない―石坂泰三の世界

石坂泰三の世界 もう、きみには頼まない (文春文庫)

石坂泰三の世界 もう、きみには頼まない (文春文庫)

[内容]

石坂泰三―第一生命、東芝社長を歴任、高度成長期に長年、経団連会長を務め、”日本の影の総理” ”財界総理”とうたわれた、気骨ある財界人の生涯を描いた長編小説。



[感想]

石坂泰三という人間はとても分かりやすい人間だと思う。謙虚であること。自分はあくまで普通の人間だと言い切ること。そこから屈託のなさ、努力し続ける姿勢、大きな存在感を持つ頼りがいなどが生まれたのだろう。石坂も東大出だし、石田礼介と同様、やはりエリートであることには変わりない。問題はその地頭の良さをどう活かすか。自分はエリートだからと驕ったところで成長が止まる。謙虚な姿勢で学びを辞めずに王道を行くこと。うん、普通(王道)はやっぱり大変だな!でも人生長いんだし、後悔しないように、できる限り王道を行きたい。



[金言]

漠然とした「生涯の一日」というより、誰の一日でもない「それがしの一日」。その一日一日を大切にしたい。

たとえ一日でも不本意な日は送りたくない。

一日一日をそれがしの一日として過ごす元気な石坂の姿は、人の目にとまらずにはおかなかった。

外見上の屈託の無さが、一種のたくましさに受け取られた



鶏口となるも、牛後となるなかれ



人生を大河の流れにたとえることが好きであった。その川の流れに任せて、なおかつ自在に生きよう。

流れの中で小さく身を縮めて守るのではなく、少しでも広い世界へ打って出る。



あくまで自分は格別な人間ではなく、ふつうの人間でしかない。

自分が普通の人間だから、変わりものを排するのではなく、むしろ、関心を持つ。



会社につとめて、いろんなこと教えてもらうんだから、金払ってもいいくらいだ。

サラリーマンはとにかく素直に。



目で学び、耳で学び、足で学ぶ。

旅程をいつも一日余裕をとる例に見るように、とにかく見て廻り、話を聞いて廻る。



横着を肯定する石坂だが、その横着にも通すべき筋がある。



外堀の水に白い水を映す日比谷の本社ビル。そこに高々とひるがえった星条旗。石坂を見世物のように呼びつけようとしたマッカーサー。会社の一部が残留しているのに玄関払いを食わせた受付。米軍将校に敬礼することを自慢にしている警官たち・・。・・・(略)・・・。日比谷の風景は東芝に通じ、それは石坂にとって、会社を失い、日本を失おうとする光景であった。



ヨーロッパへの出発前、石坂は山下太郎からアラビア湾での海底油田発掘の話を聞かされ、協力を求められた。その会社の発起人になれ、というのである。石油は経済の血液であり、日本にとっては一番不足し、一番必要とする資源。

(山下太郎=アラビア太郎アラビア石油初代社長)



いつも正論を唱え、正論あっての経団連会長であった。もちろん、正論にもいろいろあるが、石坂のそれは、日本経済の活力を信じ、また、その活力を大切にし、一日も早く一人前の国として国際経済の中へ―というもので、自由と自律の夢がそこには在った。

石坂はいわば活力派であり、手放しの自由主義経済論者に近い。



経営にヒケツなし。ただよく勉強すること。

それも広い意味での勉強、複線複々線の勉強を。

何を見ても興味が湧くようでなければ、仕事もだめだ。



奮起、奮起、併して健全なる、雄大なる思想、これを子供たち、孫たちに望む。之が私の一生の懇願である。



小細工を弄するなかれ。