粗にして野だが卑ではない
- 作者: 城山三郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1992/06/10
- メディア: 文庫
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[内容]
三井物産に35年間在職し、華々しい業績を上げた後、78歳で財界人から初めて国鉄総裁になった”ヤング・ソルジャー”―明治人の一徹さと30年に及ぶ海外生活で培われた合理主義から”卑ではない”ほんものの人間の堂々たる人生。
[感想]
石田氏は三井物産で華々しい業績を上げた。この業績には能力だけでは成し遂げられないものがあったと思う。能力+運。時代の先を見通して事業を拡大することで華々しい業績を上げたわけだ。現在の商社の役割として言われている、新しい市場を切り開く能力というよりは、どちらかというとスペキュレーションの達人として描かれている部分が多い気がする。能力の部分でいえば、石田氏は一橋大学を主席で卒業するなど、こういう偉い人はやっぱりもとから頭のデキが違うのかな、と少し悔しくなる。しかし、石田氏に本当にいつでも時代の先を見通す能力があったかというと、もちろんそんなことはない。本書後半で描かれているように、株では失敗をしている(こともある、という程度?)。城山小説の主人公にありがちな、一徹さはなかなか真似ができるものではないと思うが、商売を貫徹した後はパブリック・サービスという生き様は物凄く尊敬できるし、そのようなことを言えるまで商売をやりきることができた石田氏の人生はとても羨ましい。
[金言]
私の新年は何をするにも神がついていなければならぬということだ。それには正義の精神が必要だと思う。こんどもきっと神様がついてくれる。そういう信念で欲得なくサービス・アンド・サクリファイスでやるつもりだ。
商売に徹して生きた後は、「パブリック・サービス」。世の中のために尽くす。そこではじめて天国へ行ける。
パンのために働くのはよせ。理想の光をかかげてやれ。
商社の仕事は口銭だけではだめ。スペキュレイションもふくめ、新しく創り出すものが加わって、はじめて大きな稼ぎができる。
システムをつくりながら、石田はその相場勘と度胸で大豆の商いを伸ばして行った。
大連の大豆取引で他の商社がバタバタ倒れた中で、三井だけは損をしなかった。
リスクが大きいことは、もうけも大きいことである。業績を上げるには、避けて通るわけには行かない。ただ、「大いに慎重な構え」で臨むことにした。
指導者層のアメリカ人たちと気後れせずに付き合った。学者や文化人にもよく会った。
部下が石田の前に立つときには、充分に準備しておいて「この案が最も正しいからご承認下さい」というスタイルでなければならなかった。
石田が目を付ける部下の条件は1.ヤング 2.アグレッシブ 3.イクスピアリンスト
ばくち商売でいちばんいけないのは見切りの悪いことだ。
金儲けの楽しみは、その道行きにある。
まず、資金が余裕しゃくしゃくでないかにゃいかん。余裕がないと度胸がつかん。
「賢明な投資」のためには、「しじゅう頭を使って天下の形勢を見てなきゃ」
いやなこと、総裁でしかできないことだけをやり、決断はするが、実務は全て磯崎以下に任せる。
弁解はしない。責任は取る。
気持ちの切り替えの早いこと。
本音を隠して、ビクビクと通りやすそうな要求をするな。
自分の子分を作ったり、”石田閥”をつくらぬところがもっともよろしい。