石油の支配者
- 作者: 浜田和幸
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/10/20
- メディア: 新書
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[内容]
原油高を引き起こした犯人は誰だったのか?金融・政策・理論など多面的に論じる。
[感想]
前半の金融・投機の話はどこかで聞いたような話だったので、あまり刺激的ではなかった。もしこの話が本当なら、ゴールドマンサックスのしたたかさは恐ろしいな。全人類の敵じゃないか!
一番面白かったのは石油無機説とそれを裏付けるロシアの技術のお話。なんでこんな面白い話を前面に持ってこないのか疑問だったけど、恐らくこの無機説はトンデモ説だってことで10年前ぐらいに片付けられちゃってるんだろうな。それをロシアの石油技術躍進と結びつけることで、ここはワクワクしたお話が語られた。もしこの無機説が本当だとしても、ロシアがアメリカに勝たない限りは意味が無い!!
どちらにしても、バッケン油田の話などを聞くと、今後も石油枯渇などはありえないという気がする。どう考えても産油国は埋蔵量を少なく発表するだろう。その結果石油値段は高くなるかもしれないけど、それは問題ではないということだな。例えば採掘価格が10倍になったところで、価格に反映されるのはバレル100ドル以下というところだろ?採掘費用だけ考えれば、どう考えてもリッター当たり10円以上上がるのはおかしい!人類のエネルギー源が無くなるという問題でなく、日本の資本がエネルギー源の国へ流れていくということが問題なだけ。
アフリカ人はかわいそう。
[概要]
1バレル=159リットル
今回の石油危機は、他の危機と違って地政学的事件は起こっていない。
世界の金融市場(44兆ドル)>>先物市場全体(1800億ドル)
インデックス・スペキュレータはこの違いに注目し、先物に250億ドル(全体の18%)を投入。
石油のデータはいつも曖昧(埋蔵量、産出量、取引量)
投機筋を動かしたのは、アメリカの低金利政策もある。
原油の生産余力はわずか(1%程度)。
ブッシュ・クリントン政権はイラン・イラクに対する政策を通じて、原油の供給不安を意図的に煽り続けた。
その結果、イランは資源開発できない状況に。
また、イラクの主要油田は、すべてアメリカ軍監督下。
WTI(ウェスト・テキサス・インターメディエット)は世界最大消費地があり、原油先物価格を決めている。
ニューヨーク先物取引所(NYMEX)ではなく、ロンドン拠点のICEという企業を通した売買が盛んに(30%)。
なぜなら、NYMEXでは投機に対する米の取り締まりが厳しいから。
ICEはゴールドマンサックスが出資してできた会社。
つまり、原油価格はゴールドマンサックスがICEを通して投機することで動かしている!?
現に、ゴールドマンサックスは原油高を予想している。(先読みの信頼獲得、実際は自作自演)
ブッシュ政権はICEという投機の抜け穴を容認してきた。
産油国と投機筋のつながり―オイルマネーが投機筋に還流
新セブンシスターズ―ロシア、イラン、サウジアラビア、中国、マレーシア、ブラジル、ベネズエラ
彼らは、需要と供給の価格メカニズムを無視し、アフリカの油田権益を次々に取得。
見返りに、資源援助・インフラ整備、軍事援助。
アフリカ産油国にとっては、欧米諸国に比べ人権や民主化についての注文が少なくてよい。
彼らにとって石油は政治商品(サウジはイラクにバレル20ドルという国際価格の6分の1で売る)。
本来は親米サウジと反米イラクはこんなはずがない。
しかし、サウジ王子には反米派もいて、その政治商品として石油を使っている。
実際の石油採掘原価は概ねバレル10ドル以下(アフリカではバレル50セントもある)。
砂漠地方では、安いところでバレル1-2ドル。
世界の半分は安価な反米価格である。
日本での高価な親米価格は投機筋へ資本が流れる。
投機規制として、アジアの原油輸入国と協力して、独自石油市場を創世する手もあるのでは?
オバマは、原油高打開策として「バレル80ドル以上には、石油会社に対しバレル20%の課徴金を課す」というアイディアを出した。
国富ファンドは、規模も大きく、長期的な資産運用の取り組み姿勢も従来のヘッジファンドに比べ、遥かに大きな力を持っている。
エネルギー供給が他国の資本によって左右されかねないリスクが生じる。
赤いハゲタカ(中国の国富ファンド)の米企業買収の動きには、警戒が強まっている。
アメリカでは、過去30年間で一基も石油精製施設が建設されていない。
施設が足りず、日本・欧州から石油製品を輸入している。
アメリカは供給元を中東からアフリカへ移そうとしている。
アフリカの利権を中国・アメリカが争っている。
イージーオイル(開発容易な油田)はほぼピークアウトし、他は政治リスクがある高い油田のしかない。
しかし、産油国でも石油にはCO2の税金がかかるため、急いで増産するメリットは無い。
ピークオイル(ハバート博士)への反論
―枯渇したからでなく、石油会社が生産を調整・ストップしたから?
安価な中東の原油に、アメリカの原油が負けただけ?
IEAの考えは、ピークオイルはあまりに極端で、資源はほぼ無尽蔵、問題は環境と採掘技術。
ピークアウトしたのはライトスウィートのみで、他は当てはまらない。
北極には埋蔵量の4分の1が眠っていると考えられており、最後の古代石油フロンティア。
ロシアの原油無機説―マグマに近い超深度地帯で自然発生的に形成された資源である。
もともと、有機起源説は科学的立証がなされたとは言いがたい。(何故一部にだけ原油が出る?)
これに基づき、ロシアは油田再開発・新規油田発見を成功させた。
旧ソ連が冷戦時代に蓄積した、超深度採掘技術。
エクソンはユコスを通じてこの技術を捕ろうとしたが、プーチンに見つかりユコス社長は反逆罪。
この技術でベトナムは産油国になった。
火山国日本も、アメリカを乗り越えてこの技術を手に入れるべきでは?
無機説・有機説、どちらが正しいかはまだ分からない。
実は石油市場はダイアモンド市場(実際価格は100分の1)のような幻想市場だったのか!?
原油枯渇説は投機筋の打ち出の小槌だったかもしれない。
以上な価格乱高下の原因の一つに、正確な原油データが一つもないことが挙げられる。
1980年代OPECは産出量は埋蔵量に従うと決めたところ、クウェートは一晩で埋蔵量を50%増やした。
埋蔵量データは国外非出の極秘データで、当てにならない。
消費者にとっては、価格高騰よりも製油所不足が問題か。
今後2年で世界の3分の1はアフリカ産になる。
しかし、そのオイルマネーはアフリカを豊かにせず、一部の政府関係者にだけ入った。
アフリカには環境汚染のみが残った。
様々な部族がオイルメジャーの施設を攻撃するように。
この所、オイルメジャーはアフリカでの生産を継続することが困難に。
そこで、アメリカは米軍拠点をアフリカに築こうとしている。
京都議定書は1990年基準。1995年基準なら日本は苦労せずに済んだ。
京都議定書を堅実に守る日本は無類のお人好しか。
エンロンは環境ビジネスでのし上がった。
クリントンに地球温暖化懐疑説を唱える学者を失脚させる嘆願書を出した。
また、石炭業界に仕掛けてブッシュ政権を誕生させた。
つまり、あるときは環境ビジネス、あるときは環境汚染企業からコンサル料を取った。
2006年アメリカで明らかになったバッケン油田は、サウジの埋蔵量の8倍とも言われる。
日本では、国家レベルでの石油政策を取り仕切る石油公団が、小泉改革の御旗の元で潰された。
日本人は、石油が政治商品であるという認識が皆無である。
日本の武器は、民生技術(逆浸透膜)、都市鉱山(アフリカより多い金は世界一)、海洋資源(海洋面積は世界6位)。
次の時代は、水こそが資源となる。
日本に欠けているのは世界の動きに対し、より感度の高いレーダーを働かせ新エネルギーの開発や自然と一体化したライフスタイルを打ち出すことだ。