ルポ 貧困大国アメリカ
- 作者: 堤未果
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/01/22
- メディア: 新書
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アメリカの格差社会の影響、原因、そして貧民達はどこへ行くのか。
[感想]
アメリカやばい。とても住みにくい社会だな。競争社会もここまで行くと、気味が悪くてとても住めたものじゃない。おそらく自分はアメリカに行っても貧困層になることはないと思うが、周りにこれだけ貧困層の人がいて、堕落していくのを見ながら、自分だけアメフトにベースボールじゃあ気分が良くない。富裕層には優しくても、住みたいとは思わない。それに、こんなんじゃいつかボロが出るにきまってる。日本はどうかな?規制緩和、民営化などアメリカのあとを追うようなことが続いているけど、民営化して良いところと悪いところはきっちり監視していかなければならない。
生存権に関わる、医療、教育、警察などに民営化を持ち込むのは絶対にいけないことだ。
となると、郵政民営化はどうだったんだろう?あの時小泉を支持した人も考え直すだろうか。
[概要]
サブプライムローン問題=過激な市場原理が経済的「弱者」を食い物にした「貧困ビジネス」のひとつだ。
(i)市場原理が国民の生存権を奪い、(ii)「民営化された戦争」に商品として引きずり込まれていく。
1〜4章で(i)を扱い、5章で(ii)を扱う。
1章:貧困と肥満児
2章:貧困移民
3章:貧困へと続く医療
4章:貧困へと続く教育
5章:戦争へ送り込まれる貧困層
第1章 貧困が生み出す肥満国民
ニクソン政権は、総中流社会を理想とし、企業と高所得者から税金を集め、教育・医療・福祉によって中間層に再分配。
⇒不況によるインフレ
⇒それを打開するための新自由主義
:レーガン政権の効率重視の市場原理主義
規制緩和、法人税低減、社会保障削減
貧困児童の教育レベルの低さと肥満度は比例する。
・安くて簡単なジャンクフード・揚げ物を食べてしまう。
・貧困地域では、健康管理の予算がない。
・給食も安価でカロリーの高く、調理の簡単なジャンクフードに。
・給食費削減から、給食マーケットに大手ファーストフードが参入。
・フードスタンプ(貧困層向け食品交換券)はインスタント食品に用いられる。
肥満児増加は貧困層に対する政府の切捨て政策の結果。
2006年次で、6000万人のアメリカ国民は7ドル/日で暮らしている。
第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民
ハリケーンカトリーナ
犠牲者が増えた原因のひとつ:FEMAの対応の遅れ
ホワイトハウスの非常事態宣言適用地域のリストにニューオリンズなど州南部は含まれていなかった!
FEMA:FEMAの認定がない限り、勝手に救助活動をしてはならない。
原因はブッシュ政権によるFEMAの民営化
⇒いかに安く救助するかが目的に
カトリーナ後、ルイジアナ州は学校128校のうち107校を管理下に置き、チャータースクールに切り替えた。
:学校の民営化
⇒教育の格差
アメリカの人口のうち、移民は12.5%の3570万人に
子供のころに連れてこられた不法移民は不法移民になる。
⇒普通には雇ってもらえない。
そもそも不法移民の根源はグローバリゼーション
第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々
レーガン政権の新自由主義
⇒大企業の保険料負担減のため、公的医療縮小
⇒国民の自己責任の名の下、自由診療という保険外診療増へ
⇒民間の保険へ入る国民増
⇒保険市場拡大
⇒製薬会社・医療機器会社も儲かる
アメリカの乳児死亡率は先進国中最高(1000人中6.3人)
大企業擁護の規制緩和や福祉削減政策により、中間層の破産が増
盲腸入院手術費用の全世界ランキング1位はNY(243万円、入院日数平均で1日!)
2〜4位はロサンゼルス、サンフランシスコ、ボストン・・・
病気になり医療費を払えずに破産するのはほとんどが中流階級の医療保険加入者。
全米166都市/294都市では保険市場50%以上を一社が独占しており、保険料が釣りあげられている。
医療費高騰で、出産も日帰りになる傾向。
2007年1月で、4700万人は無保険者で、そのうち900万人が子供。
市場原理により、医療保険が低リスク者用保険と、病人用高額保険に二分されたことが原因。
一度病気になると、高額保険しか残されていない。
メディケイドを受けるには、貧困者にならなければならない。
働くとメディケイドを受けられないため、働かない人も。
2008年連邦予算案では、低所得者向け医療保障予算を今後5年で78億ドル削減し、さらに児童向け医療保険制度も大幅削減予定。
医療実績の悪い病院や、請求額の多い病院は保険会社の登録リストから外されるので、医療側は会社を邪険にできない。
1970年代以降の医療裁判の続発
⇒保険業界が医療損害保険から撤退
⇒医療損害保険の掛け金高騰
⇒医者の収入の3割が保険料に
⇒特に産婦人科や救急外科では保険料が高すぎて廃業に
産科医のリスク:保険料+中絶反対運動家による殺害+訴訟+製薬会社の圧力
デメリットが多すぎる!
さらに保険会社ごとに異なるマニュアルにより、診療以外に事務処理の激務が。
しかし、「評価システム」が怖くて手を抜けない。
レーガンによる新方式のメディケア(DRG)
⇒病院には定額支払われる
⇒医療行為を減らすほど病院がもうかる
⇒平均在院日数・入院数・病院数(10%程度も!)が減少
⇒手のかかる重症患者ほど病院側が受け入れを渋る
企業の保険は個別に保険会社と契約するため、重病患者の職場復帰がままならない。保険料が上がるのを企業が嫌がるからだ。
病院の株式会社経営化のしわ寄せは、看護師の負担増、患者の医療費負担増にくる。
第4章 出口をふさがれる若者たち
ブッシュの落ちこぼれゼロ法の真実
『全米のすべての高校は生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出すること。断れば助成金カット』
貧しい学校はやむを得ず個人情報提出
軍はこの情報内から貧しく将来が暗い高校生を洗い出し、直接勧誘する。
軍の勧誘1:軍が学費を負担する
・学費受取には前金納入が義務付けられているため、実際大学の学費を受け取るのは35%
・実際に受け取る額は契約時の額より少ないため、大学4年を卒業するのは15%
軍の勧誘2:軍の医療保障
・軍の病院は予約でいっぱい(10か月とか)
・民間病院は軍の医療保障外
軍の勧誘3:9.11以後取得困難になった市民権
永住権だけではまともな職業に就けないため市民権が
「夢の法律2007」:不法移民にも市民権のチャンス
兵士不足に悩む軍にとって75万人の不法移民は魅力的
移民法強化とセットにすることで、不法移民は必至に市民権を取りにいく。
軍リクルーターの正体:軍の底辺から抜け出そうとする貧困層
ノルマをこなさなければ最前線に逆戻りなので、必至に高校生を勧誘する。
新自由主義により学費ローンも民営化
返済金取り立ても厳しく
学費ローン補助の削減
⇒学費をカードで払う学生増
⇒ブラックリストに載り、大学卒業後も就職できない
ネット世代の勧誘:アメリカズアーミー(ネットゲーム)に440万ドル
入隊しても給料は貧困ラインぎりぎり+保険で、貧困ラインを抜けだせない
除隊後は心理ストレスから普通の生活ができない
アメリカホームレス350万人のうち3分の1が帰還兵
第5章 世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」
貧困層は勝ち組の利益を生むシステムの中に組み込まれている。
ミルトン・フリードマン『国の仕事は軍と警察以外民営化するべき』
ラムズフェルド『さらに推し進めて、戦争を民営化』⇒典型はイラク戦争
兵士派遣会社の繁栄
ターゲットは国内のみでなく、世界の貧困層(民営化なので、コスト低減に向かう)
米兵でないため、武器を持たせずに戦地に派遣しても違法でない。
しかも、派遣社員は戦地で死亡しても戦死者に数えられない。
たとえ民主党がイラクから軍を撤退させても、イラク戦争事態に予算が出れば、それはブラックウォーター社やハリバートン社のような民間戦争請負会社に流れ、「民営化された戦争」が続くことになる。
個人情報が一元化(国民身分証法)されれば、個人情報は軍事利用されやすくなる。
9.11以後はAT&Tなどの民間も「安全保障」の大義の下、個人情報を差し出す。