組織の盛衰―何が企業の命運を決めるのか
- 作者: 堺屋太一
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 1996/01
- メディア: 文庫
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[内容]
今までされてこなかった、組織論にスポットを当て体系的に学問として捉える。
[感想]
組織の形そのものにスポットを当てるという展開は、なかなか啓発的な内容だった。豊臣家から企業まで同じ視点で捉えるというのは面白い。ただ、筆者も述べているように、体系的な学問として組織論を展開するため、実用的にはなりづらい冗長な部分もあったように感じる(特に第二章)。最も重要なのは第四章(組織の「死に至る病」)であろう。自分も来年から大企業に所属する身としては、組織の構成員として、組織に埋没せずに広い視点を持たねばと身の引き締まる思いだ。
[概要]
第1章 ケーススタディ
ケーススタディ1.豊臣家
成長期の猛烈社員は、天下を取ってからの組織には不要だった。
借金と先行投資の繰り返しが幸運にも破たんせず、全国統一した。
その後はゼロサム社会に。
人事圧力シンドローム(何とか事業拡大、成長し、禄を増やさないといけない)。
人事圧力シンドロームの解決策
1.成長から安定へ体質・気質転換
中間管理職の反発大。鮮明な理念の創出が必要。
2.成長継続
市場開発、事業多角化
豊臣家は市場開発(朝鮮出兵)を選び、滅びた。
人事圧力下での事業拡大は大きな危険が伴う(何かをやる、という結論が出ているから。)
成功可能性より、着手可能性が高いものが選ばれてしまう。
従来手法の繰り返し、成長体験への埋没へとつながる。
豊臣家を継いだ徳川家康は、成長体質・気質を否定する縮小均衡政策を取った。
新たな理念、「人格のための勤勉」を創出した。
ケーススタディ2.帝国陸軍
帝国陸軍は、徳川家下の非武装国家から、何の拘束も受けずに理想軍隊として誕生した。
忠誠心を高めるために専門教育機関を設立。
→軍隊以外では働けない専門家の共同体へと。
→卒業者は軍隊組織の拡大に生涯をかけた。
共同体化した組織
内部競争を少なくするために年功序列が徹底。
功績主義でなく、人格主義に。
与えられたテーマが各部局にとっての究極のテーマに。国全体の目的は考えなくなる。
軍縮を恨むようになる。
共同体化、機能低下の原因
1.成功体験(日露戦争)への埋没
2.環境への過剰適応
3.創造性の拒否、または排除
4.外部の人材を排除した「仲間ぼめ」に陥り、人材・技術・物資・資金を限定してしまう。
共同体化を防ぐには、さらに上の力を持った組織による「揺らぎ」が必要。
個の優秀さもマイナスにつながる。(総花主義につながり、組織が硬直性を増すため)
ケーススタディ3.日本石炭産業
最大の原因は環境への過剰適応。
世界的にエネルギーが流動化した。(石油・天然ガスへの転換)
エネルギーにブランドは付かないので、石油の方が安ければ一斉に石油に需要が移る。
しかし、政府保護のもとで発展し、巨利を博してきた石炭産業の労使は、モノ不足が医師不足の戦中戦後の環境に過剰適応していたため、国際的視野が欠落していた。
石炭産業は過剰人口の雇用という面でも過剰適応していた。
実際、石炭産業が蓄積してきた政治力は、衰退期でも巨大な利益を石炭産業にもたらした。
しかし、これも石炭産業を救えなかった。
石炭企業はどこも石油に乗り換えなかった。もし乗り換えていたら、現存の石油企業のどこよりも大きかったはず。
得意体質の強化に走る過剰適応性
人間も組織も同様で、環境の変化で危機的状況になると、これまでの環境で有利だった体質を一段と強めることで生き残ろうとする。
日本石炭産業の得意体質:政治的保護の獲得と地域的密着性、安価な労働力の大量使用
第2章 組織とは何か
組織の要素
1.構成員
2.共通の目的と共通の意思
3.一定の規範
4.命令と役割
5.共通の情報環境
異なる情報環境が生まれ、異なる規範ができたとすれば、その組織は分裂している。
良い組織
1.大きな組織
拡大は組織の本能的欲求だが、時に組織の没落と崩壊に繋がる。
2.固い組織
高い帰属意識・情報共通性
共同体の理想形
3.強い組織
高い目的達成能力の高さ(意志決定+命令の徹底と実行)
機能体の理想形
これら三つは相互に矛盾する。
組織の目的に関する問題点
1.組織が作られた目的と、組織の目的は一致しない。
例:住宅不足を解消するための住宅公団が、団地を一杯にすることを究極目的として、安い民間マンションの規制を訴えた。
例:国家の繁栄と安全のための軍隊が、国家体制と国民生活を犠牲にして自己増殖に努める。
2.全体の手段が部分の目的になる
3.組織の目的と、組織構成員の目的の違い
この二つが一致するのは、たまたま組織の目的達成が、構成員の目的達成手段となり得る場合に限られる。
構成員の目的:経済目的、権限目的、対外目的
組織への帰属意識の高い人は、組織全体の地位の低下には鈍感で、内部での比較優位だけれ満足する。
それがしばしば、組織の改革を妨げる。
共同体(ゲマインシャフト)と機能体(ゲゼルシャフト)
共同体とは
組織の発展拡大よりも、構成員の満足追求を目的とする。
理想は終身、安住、内的評価
衆目の一致する公平性と安住感をもたらす人物こそ、共同体のリーダーにはふさわしい。能力より人柄。
組織内評価による人事が望ましい。
組織体とは
外的な目的達成を目的とした組織
長期的永続性ではなく、負担の最小性こそ重要。
しかし、組織自体の目的(組織の拡大と強化)のために、非効率部分を抱え込んでいく傾向がある。
また、構成員の希望(安住)を無視すればかえって効率が下がることもある。
外的表現による客観的評価の人事(適材適所)が重要。(組織としての社会主観も排除しなければならない)
第3章 組織管理の機能と適材
i. トップ
1.組織全体のコンセプトを明確にし、その組織の目的を誤りなく伝える
2.基本方針の決定と伝達
3.総合調整
これらを実行する方法:言葉、行動(人事、情報ルートの選定)、雰囲気
ii. 現場指揮者
専門知識、判断力(短期的先見性と決断力)、勤勉さ、人心掌握力、敵を恐れぬ程度の勇気・トップを恐れるほどの臆病さ
iii. 参謀
能力は創造力によって決まる。
1.情報収集、分析を好み、先見性を養う
2.実現可能性のある創造力
3.企画に対する積極性(批判は簡単、慎重さを求めるのも簡単)
4.トップに拒否されても固執しない発想の軽さ
iv. 補佐役
トップの行う総合調整の事前処理、その結果の微調整
1.匿名の情熱
2.トップの基本方針の枠を超えない
3.絶対に次期トップではない
v. 負の補佐役
一種のチェック機能、トップの防壁。
有効な範囲内であれば、組織のマンネリズムを防ぐ。
トップへの批判を吸収する。
v. 後継者
次期トップを指名した途端に、「皇太子の側近」派閥(現状に不満あり)が形成される。
双方の対立が深まってしまう。
組織の地位を長く保つ確実な方法は、後継者を作らないこと。(そういう人物は無能者である場合が多いので用心)
第4章 組織の「死に至る病」
偶発的な原因で大組織が滅亡することはあり得ない。自浄作用・修復機能が必ず働くから。
死に至る病:機能体の共同体化、環境への過剰適応、成功体験への埋没
病1.機能体の共同体化
一旦共同体化が始まると、それを肯定する人事と資源配分が強化され、やがて正義になってしまう。
「社員のため」というフレーズで野心が隠され、抵抗し難くなる。
共同体化した組織の構成員は、安い給与で長時間働き、世間の同情と清潔な印象を得ようとする。
これは利己的な行動である。(自分の出世の為に組織の目的を無視している。)
組織倫理の頽廃(何が悪いか分からなくなる状態)が共同体化の原因
共同体化の尺度
年功人事、情報の内部秘匿、総花主義(集中の不能)
滅びの美学が起こる(世間の非難を受けても我々だけはこれをやりとおす!ということ)
企業が社員共同体に陥るのを防ぐには、実権、情熱を持った相当口うるさい社外重役を何人か加えるべき。
病2.環境への過剰適応
現在うまくいっている組織にも、常に「揺らぎ」を与えて、環境への過剰適応を防止しなければならない。
病3.成功体験への埋没
組織は個人よりもはるかに成功体験に溺れやすい。
なぜなら、一度成功した成功者が組織内の主流になり権威を持つからである。
成功体験者が権威をも知、成功体験分野が過大評価されると、組織全体が仮定を積み上げる「思考のアリ地獄」に陥ってしまう。
成功体験への埋没を防ぐためには、特殊事情を二度認めてはならない。
組織体質の点検
カネとヒトの不足や設備の不備を言い立てるのは、組織的欠陥を隠ぺいすることになり易い。
1.要素の点検
個別に並べるのでなく、組織的な視点での比較検討が必要。
新規技術やシステムが登場した場合、費用対効果のバランスを超えた過剰投資が生じやすい。
2.中身の点検
効率検査。
経営状態が良好な時期には、本社管理部門やスタッフ部門の検査が甘くなりやすい。
3.仕組みの点検(体質検査)
現にある仕組みが、どのような理想を描いて作られ、どのような目標を持ったものかを明確に捉える。
現にある仕組みが、どのような環境に対応して作られたものかを見極める。
現にある仕組みが、どのような結果を生んでいるかを見極める。
組織気質の点検
構成員の士気、組織間の協調度、命令実行度、
倫理の点検
第5章 社会が変わる、組織が変わる
知価社会で、生産手段と労働力の分離の流れが逆流してきている。
今後は純粋消費者(非労働高齢者)が増え、消費者中心になりつつある。
・将来の経済成長よりも今日の生活の楽しさ
・効果な国内商品よりも国際競争による安価な商品
・公共事業よりも減税
・企業の先行投資を促す低金利政策よりも、利子収入を増加させる高金利政策
第6章 これからの組織
企業はまず三比主義(前年比・他社比・予算比)から抜け出し、量だけでない企業の目標を創造する必要がある。
「コスト+適正利潤=適正価格」の発想を捨て、「価格−利益=コスト」の発想へ
利益質の改善
利益質=外延性、継続性、好感度
人事評価=自己犠牲評価 or 能力・功績評価