予想どおりに不合理

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

[内容]

経済行動に大きく影響しているにも関わらず、これまで無視され誤解されてきた、人の不合理さを研究する行動経済学



[感想]

これを経済学と呼ぶかどうかはともかく、非常に面白かった。この本のキーワードは、相対性、一貫性、失うことに対する嫌悪、社会規範などになるかな。内容的には、以前読んだ『影響力の武器』と重複している部分が多かったが、こちらの実験の方がおもしろくて分かりやすい。ゼロコストの話や、社会規範の話は特に面白かった。会社が社会規範を重視するのは、現在の派遣切りになぜ人々が怒っているかを理解する一つのポイントになると思う。また、小さな違反行為に関する話も、いずれは社会人になり、違反を確実にさける上では非常に重要になる話だと思う。



[概要]


1章 相対性の真相

私たちは何でも比べたがるが、比べ易いものだけを比べて、比べにくいものは無視する傾向がある。

例えば、商品Aは特性1に優れ、商品Bは特性2に優れるとする。これでは比べにくい。

そこに、おとり商品A’(特性1が商品Aより少し劣る)を加えると、商品AとA’を比較し、全体の中で商品Aが優れているように錯覚する。



嫉妬や僻みは他人の境遇と比べるところから生じる。

小さな円が集まっている方へ移動すれば、相対的な幸福感は大きくなる。

人は持てば持つほど欲しくなる。唯一の解決法は、相対性の連鎖を断つこと。



2章 需要と供給の誤謬

人に何かを欲しがらせるには、それが簡単には手に入らないようにすればよい。

恣意に決めた値段・価値は一貫性を持つようになる(アンカーになる)

値札はアンカーではない。この値段で買おうと決めたとたん、それがアンカーになる。



ハーディング:他人が前とった行動をもとにものごとの良し悪しを判断して、それに倣って行動する。

自己ハーディング:自分が前にとった行動をもとに物事の良し悪しを判断する。



スターバックスの戦略ーどのようにアンカーを移したか

ほかのものとかけ離れた経験にすることで、安いコーヒーからスタバの高いコーヒーへとアンカーが移った。

(高そうな名前、見栄え、しゃれたコーヒープレスなど)



恣意的に喜ばしい経験やつらい経験にできる



過去のどこかで恣意的な判断をし、以来ずっと、最初の決断が賢明だったと思い込んで、それを基盤に人生を気づいているのか?

⇒なにをするにしても、自分の繰り返している行動に疑問を持つべき。

最初の決断に気をつける。



消費者が払ってもいいと考える値段は簡単に操作できる。

⇒需要と供給の理論はおかしい。

恣意の一貫性の枠組み内では、私たちが市場で見かける需要と供給の関係は、選考でなく記憶に基づいている。

長期的に見れば、需要への影響は、価格上昇に対する短期的な市場の反応をただ観察して得られる予想よりはるかに小さいはず。



自由市場の基本概念は、自分以上に相手が価値を見出している何かを売買することにより双方が利益を得る。

しかし、個々の満足度を反映しない取引が行われる可能性が高い。

⇒政府の役割が重要では?



3章 ゼロコストのコスト

たいていの商取引には良い面と悪い面があるが、何かが無料になると、悪い面を忘れ去り、無料であることに感動して、提供されているものを実際よりずっと価値あるものと思ってしまう。

なぜなら、私たちは何かを手に入れる喜びより、何かを失うことを恐れを重視してしまうから。



値段ゼロは単なる値引きではない。ゼロは全く別の価格

2セントと1セントの違いは少ないが、1セントと0セントの違いは莫大。



4章 社会規範のコスト

社会規範:友情、恩義、社会的つながり

市場規範:支払った分のものが手に入る、金銭的つながり



人は金より、お金の絡まない社会規範の下での方がより働くことがある。

例、ボランティアなら働くが時給30ドルだと働かない弁護士



お金が絡むと社会規範が消え、市場規範が支配的になる

一度消えると社会規範は戻りにくい

お金でなく、プレゼントなら社会規範は消えにくい。

プレゼントの値段を口にした時点で社会規範は消えさる。



お金について考えるだけで、経済学の予想するとおりに行動し、普段の社会的動物の振る舞いはしなくなる。



罰金制度は社会規範を消すため、長期的にはうまくいかない。

しかも、罰金制度を廃止した後も社会規範は戻らないため、最初より悪くなる。



会社は、顧客・社員を家族のように扱おうとする(社会規範)

しかし、その関係はずっと続かなければならない。

社会規範により、従業員は熱心で勤勉になり、順応力も意識も高まる傾向がある。

例:オープンソースのソフトウェア



近年の福利厚生の削減で、社会規範は崩壊しつつあるのではないか。



現金ではその金額の程度のことしかできない。

社会規範こそ、長期的な違いを生む力。



5章 性的興奮の影響

性的興奮でない状態では、興奮した時自分がどのように動くか理解できない。

自分がいかに「良い人」であろうと、情熱が自分の行動に及ぼす影響を甘く見ている

異なる感情の状態にある自分を理解する能力の欠如は、経験によっては解決できない。



性的誘惑に負けることを前提に、コンドームは必ず持参する(させる)。

誘惑に打ち勝つより、誘惑を避ける方が簡単。



冷静な状態と、熱くなった状態を理解し、その隔たりが生活にどう役立ち、どう堕落させるかを見極めなければならない。



6章 先延ばしの問題と自制心

この問題も、根っこは5章と同じ:違う精神状態のことを理解すべし。

圧力の大きさは、『外からの高圧的な命令>自分で意志表明する>自由に任せる』となる。

最善策は、自分から決意表明させること。



7章 高価な所有意識

3つの不合理な奇癖

1.自分がすでに持っているものにほれ込んでしまう

    外からの恣意的な決定を飲みこむのは、その決定が優れているからでなく、何かを手にした途端に愛着を持ち始める人間性の力。

2.手に入るかもしれないものでなく、失うかもしれないものに注目してしまう

    失うことに対する嫌悪は強い感情。

3.他の人は取引を見る視点も、自分と同じだろうと思い込んでしまう



・何かに打ち込めば打ち込むほど、それに対する所有感が強くなる。

・実際に手に入れる前に、所有意識が高まることがある。仮想の所有意識(ネットオークション、広告、おためしなど)



所有意識は物に限らず、思想にも当てはまる(支持政党、応援するスポーツチームなど)



どんな取引も、あえて自分と目的の品物の間にある程度の距離を置き、できるだけ自分が非所有者であるかのように考えるべき。



8章 扉を開けておく

無用の扉(選択肢)でも、消えそうになると残しておきたい衝動に駆られる。

特に選択肢があふれている現代社会では起こる問題。



無用の扉に気を取られて、本当に重要な扉(家族など)が閉じないように気をつけなければならない。

私たちに必要なのは、いくつかの扉を意図的に閉じること

無用の扉を開けておくと、本当に開けておくべき扉からエネルギーと献身を吸い取ってしまう。

決断しないことによる影響」を考えに入れる。

例、仕事探しに気を取られる内に、研究を軽視してしまった著者(俺と全く一緒!!)



9章 予測の効果

あらかじめ味がまずいと教えると、人々がそれに賛同する可能性が高まる。

ただし、知識が経験の前に来るときだけ効果があり、経験のあとに知識が来ても、あまり影響を与えない。

これはブランドや商品の信頼をき築くのにも重要。



ライミングステレオタイプ化された人は、そのレッテルに気付くと反応が変わる。



10章 価格の力

信念や予測は知覚に影響を与えるだけでなく、主観的・客観的な経験をも変化させる。



プラセボを働かせる予測は2つの仕組みで作られる。

1.信念(医者に対する信頼や確信)

2.条件づけ(慣れ、経験)



もし効果が一緒と分かっていても、健康のことになると安い薬を使う気になりにくい。



私たちは、値引きされた物を見ると、直観的に定価のものより品質が劣っていると判断し、実際にその程度のものにしてしまう



患者はみな処方箋をもらって帰りたい。その精神的必要性を満たすのは医者にとって正しいのでは。



11章 私たちの品性について その1

個人は、自分に都合の良いだけ正直になる。



フロイト『私たちは社会で成長するにつれて社会的美徳を内面化して自分のものにし、この内面化によって超自我の発達が促される。』



問題は、大きな違反行為のときにしか、超自我のモニターが反応しないこと。

人はチャンスがあればごまかすが、決して目いっぱいごまかすわけではない。

何か倫理思想を思い浮かべるだけで、小さな違反行為もしなくなる。

ただし、その宣誓や規則を思い浮かべるのは、誘惑の最中か直前でなければならない。



社会規範と同様、職業倫理が一度低下すると、元に戻すのは難しい。



12章 私たちの品性について その2

現金を扱うと、不正をしにくくなる


不正行為は、現金から一歩離れたときにやりやすくなる

例、代替貨幣、保険詐欺、ワードロービング、経費報告書、電子商取引



交換媒体がお金でないとき、不正の正当化の能力は飛躍的に増加する。

現金を使う時代の終わりが近付く今、これは認識されるべき問題だ。