ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則

ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則

ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則

[内容]

「良好な企業」が「偉大な企業」へ飛躍するためには何が必要か。何が必要でないか。

 

[感想]

本書の良いところは「偉大な企業」を、15年以上の長いスパンで定義しているところ。この定義から行けば、今流行りのユニクロ、任天堂やマクドナルドは「偉大な企業」とは言えないんでしょう。「ユニクロ成長の秘訣」みたいな感じのミーハーな本とは一線を画していて、信頼できる調査結果だと感じました。

ただ、著者は第一章において、事実のみを見て主観は一切排除した、としていますが、事実から概念を抜き出す、という行為には少なからず主観は入るはずなので、そこに注意は必要だと思います。

本書の内容を実行できるかどうか。一つ一つのステップは簡単なようで、それぞれ個人に我、主張がある人びとの中でこれらを実行するのは非常に難しく感じます。例えば二つめのステップである「適切な人物を選ぶ」。企業に属する自分にとっては、たとえ社長になったとしても、株主からの圧力に耐えつつこれを実行するのは困難でしょう。やはりこれらのステップ全てを反復し続けた偉大な企業は、偉大です。

企業に属する自分が仕事する上でどう役立つか。まず、自分が第五水準になれるように努力します。謙虚に、かつ意志を強く持つ。その上で、社内起業のような形で「適切な人物を選ぶ」ステップに進む際に、協力してもらえる人物を探していきたいです。

短期間で成果が出る本ではありません。長い時間をかけて、挑戦する甲斐のある内容です。

 

[概要]

第一章 偉大な企業(本書の要旨)

定義株式運用成績が十五年にわたって市場並み以下の状態が続き、転換後は一変して、十五年にわたって市場平均の三倍以上になったこと

 

偉大な企業を選定する上で

・産業の動きによる飛躍の企業は排除した。

・主観を排除するため、株式運用成績だけを選別基準にした。

 

飛躍した企業に共通していて、比較対象企業との違いをもたらしている点はなにか。

 

分析においては、事実から直接理論を導く方法(帰納法)を用いた。

 

分析の結果分かった、意外な事実の例

・著名で派手な社外からのリーダーと、飛躍には相関がマイナス。

・経営陣の報酬は飛躍に関係ない。

・戦略の確立は飛躍に関係ない。

・飛躍企業は「すべきこと」でなく「してはならないこと」を重視。

・技術は飛躍を加速しうるが、飛躍をもたらすことはない。

M&Aは飛躍をもたらさない。

・飛躍した企業は、士気、動機づけ、変化には注意しない。

・飛躍した企業は革命的な方法を取らない。

・偉大さは事業環境の変化によって生み出されたものではない。

 

飛躍をもたらすもの:弾み車

1.規律ある人材

 ・第五水準のリーダーシップ

   :個人としての謙虚さと、職業人としての意志の強さ

 ・最初に人を選びその後に目標を選ぶ

2.規律ある人材

 ・厳しい現実を直視する(だが、勝利への確信を失わない)

 ・針鼠の概念

   :情熱を持って取り組めて、自社が世界一になれて、経済的原動力になるもの

3.規律ある行動

 ・規律の文化

   :過剰な管理が不要になる

 ・促進剤としての技術

 

これらを弾み車のように回し続けることで、考えられないほど回転が早くなる。

 

 

第二章 第五水準のリーダーシップ(一つ目の要素)

第一水準:有能な個人

第二水準:組織に寄与する個人

第三水準:有能な管理者

第四水準:有能な経営者

第五水準の経営者:個人としての謙虚さと職業人としての意志の強さ

 

信じがたいほどの大きな野心を組織に向けていて、自分自身には向けていない。

 

成功した時は窓の外を見て、成功をもたらした要因を見つけ出す(具体的な人物や出来事が見つからない場合は幸運を持ち出す)。結果が悪かった時は鏡を見て、自分に責任があると考える(運が悪かったからとは考えない)。

 

比較対象企業の経営者は、偉大な経営者だと世評を集めるのに熱心で、自分が引退した後に会社が成功を収められるようにはしていない。

例:リー・アイコッカ(クライスラーの再建)

再建後は次第に自分を売り込むようになり、人気を得た。アイコッカの株は大いに上がったが、在任期間の後半には、クライスラー株の運用成績は市場平均を31%下回った。

 

 

皮肉なことに、謙虚な人物は権力を求めない。しかも取締役会は、偉大な組織には押しの強い人物が必要だと誤解している。よって、第五水準の経営者はめったにいない。

↓↓↓↓↓

第五水準の人物を見つけるには、異例なほど素晴らしい実績があるのに、自分の功績だとしゃしゃり出る人物がいない場合に注意する。おそらくは、第五水準の指導者になりうる人物が関与している。

 

 

第三章 最初に人を選び、その後に目標を選ぶ(二つ目の要素)

「何をすべきか」でなく「誰を選ぶか」を優先すれば

・環境の変化に適応しやすくなる

・動機づけの問題や管理の問題はほぼなくなる

・正しい方向、正しい方針を実施できる

 

1.適切な人物を選び、不適切な人物を外し、その後に目標を決める。

2.飛躍には、人事の決定に極端なまでの厳格さが必要。

 

比較対象企業では、「一人の天才を千人で支える方式」を取る。

1 第四水準の経営者

2 最初に目標を選ぶ

3 そのビジョン実現の為に能力の高い兵士を集める

 

飛躍した企業は

1 第五水準の経営者

2 最初に人を選ぶ

3 その後に最適な道、目標を選ぶ

 

報酬制度の目的は、不適切な人びとから正しい行動を引き出すことにはなく、適切な人びとをバスに乗せ、その後もバスに乗り続けてもらうことにある。

 

適切な人材とは、学歴や技能、専門知識、経験などより、性格と基礎的能力である。

 

厳格であって冷酷ではない。

・リストラや首切りは、飛躍への道筋ではない。

・疑問があれば採用せず、人材を探し続ける。

・人を入れ替える必要があると分かれば、すぐに行動する。

 (その人物をもう一度採用するか?その人物が辞職するとしたら失望するか?を考える)

・最高の人物は、最大の問題の解決ではなく、最高の機会の追求に充てる。

 

 

第四章 厳しい現実を直視する(三つ目の要素)

社外の現実ではなく、経営者の顔色を伺っている状況を経営者が許していると、会社は凡庸になる。

カリスマ経営者の弱み:部下が厳しい現実を報告しなくなる

 

厳しい現実を直視する社風を作る。

「自分の意見を言える機会」ではなく、「上司が意見を聞く機会」を作る。

 

1.答えではなく、質問によって指導する。

2.対話と論争を行い、強制はしない。(激しい議論を好む)

3.解剖を行い、非難はしない。

4.「赤旗」の仕組みを作る。(情報の質でなく、入手した情報を無視できない情報に変えられるかどうか)

 

厳しい現実を真っ向から見据えて、「われわれは決して諦めない。決して降伏しない。時間が掛かるとしても、必ず勝つ方法を見つけ出す」と宣言すれば、気分は高揚する。

 

ストックデールの逆説

勝利への確信を失ってはならない。

同時に

もっとも厳しい現実を直視しなければならない。

 

 

第五章 針鼠の概念(四つ目の要素)

針鼠型の人たちは本質を見抜き、本質以外の点を無視する

 

針鼠の概念

第一に、戦略策定の基礎として、三つの主要な側面(三つの円)を深く理解する。

第二に、この深い理解を単純で明快な概念にまとめ、この概念を全ての活動の指針にしている。

 

三つの円

1.自社が世界一になれる部分はどこか

  核的能力とは限らない。

2.経済的原動力になるのは何か

  「X当たりの利益」の「X」に最も相応しいのは何か。

  持続的かつ最大の成長をもたらすようにXを選ぶ。

  Xに関する問いを使って、自社の経済的現実に関する理解を深める。

3.情熱を持って取り組めるのは何か

  どうすれば熱意を刺激できるかではなくて、どのような事業なら熱意を持てるか。

 

最高を目指すことではない、最高になれる部分はどこかについての理解。

 

能力の罠

無難な仕事を続けていても、無難になれるだけである。

 

比較対象企業では、

・三つの円で示された問いを立てていない。

・目標を立てるのに、現実の理解でなく、虚勢に頼っている。

 

針鼠の概念の確立

三つの円に基づく問い

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三つの円に基づく議論と論争

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三つの円に基づく経営方針の決定

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三つの円に基づく解剖と分析

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上に戻る

 

適切な人びとによる評議会で、三つの円に基づく議論と討論を長期にわたって反復する。

 

「世界一といえる部分がどこにもないし、これまでにもなかった」という結論に至った場合どうするか。

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「世界一になれる部分がどこかにあるはずだ。それを探し出してみせる。世界一にはなれない点がある厳しい現実も、直視しなければならない。この点で幻想を抱いてはならない。」

 

第六章 規律の文化(五つ目の要素)

人ではなく、システムを管理する。

規律ある人材、規律ある考え(厳しい現実の直視)の後に来る最後の規律:規律ある行動

この順番が重要。

 

1.枠組みの中での自由と規律

2.ふさわしい人材として、みずから規律を守り、最大限努力する人を集める。

3.規律の文化と規律をもたらす暴君は違う。

4.「止めるべき点のリスト」を作り、三つの円から外れるものを組織的に取り除いていく。

 

三つの円が重なる部分を理解できると、大胆な賭けに保険を掛けることはまずない。

最も効果的な投資戦略は、「正しく選択した分野への非分散投資」である。

 

第七章 促進剤としての技術(六つ目の要素)

新技術に振り回されない。

派手な技術、大げさな広告、株式市場の根拠なき熱狂によっては飛躍しない。

 

針鼠の概念が技術の利用方法を決めるのであって、その逆ではない

 

重要なのは、針鼠の概念の三つの円が重なる部分に直接に関係する技術のみ。

 

経営史をみても、新技術の先駆者が最終的に勝者になった例は極めて少ない

二番手、三番手の追随企業が開拓者を打ち負かすパターンはよくある。

 

深い理解もなく、安易な解決策として技術に飛びついた場合には、自らが招いた転落を促進する要因になる。

 

飛躍を遂げた企業は、競争による打撃への恐怖によって動かされてはいない。

受身になって右往左往していれば、悪循環に陥り、凡庸の状態に止まる

 

第八章 弾み車と悪循環

飛躍に大きな転換の決定打はない。

小さな動きを大量に積み重ねていった結果。

 

短期的な業績向上を求める圧力をうけながらも、弾み車による準備と突破を目指す忍耐力と規律。

常に改善を続け、業績を伸ばし続けている事実に、極めて大きな力がある。

 

目標を熱心に伝える必要はない。

弾み車の勢いを見て各人が判断してくれる。

「これを続けていけば、すごいことができるぞ」

可能性を実現しようとみなが考えるようになり、目標はおのずから決まってくる。

 

第五水準の指導者に私心がなく、計画達成に打ち込んでいるのを見れば、斜に構えていた人も真剣になる

 

比較対象企業の悪循環

準備段階を飛び越して一気に突破段階へはいろうとする。

新たな方針、企画、指導者、式典、流行の追求、買収

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業績が上がらず、勢いがつかない

↓↓↓↓

業績への失望

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理解しないままの反応

↓↓↓↓

上に戻る

 

第九章 ビジョナリーカンパニーへの道

基本理念を維持し、進歩を促す。

基本的な価値観と目的を維持しながら、事業戦略や事業観光は世界の変化にたえず適用している。

 

この本全体の要点は、今実行している内かなりの部分が、力の無駄遣いであると認識することにある。

仕事時間のうち半分以上を原則の適用にあて、それ以外は無視、中止すれば人生が単純になり、業績がはるかに向上する。

 

「なぜ偉大さを追求しなければならないのか、そこそこの成功で十分ではないのか」と問わなければならないのであれば、おそらく、仕事の選択を間違えている。

 

Q&A

Q.傑出した人材が足りない中で、どうやって「適切な人材」規律を守るか。

A.最上層部は見つかるまで待つ。性格を重視して専門知識偏重を改める。適任仕事がなくても不景気時に雇う。

 

Q.不適切な人物をバスから下ろすのが難しい場合はどうするか。

A.達成まで時間をかける。

 

Q.CEOでない立場で何ができるのか。

A.じつにさまざまなことができる。

 

Q.どこからどのように始めるべきか

A.まず本書の内容、概念をよく理解する。次に、「最初に人を選ぶ」から順に主要な概念をひとつずつ実行していく。一歩で、第五水準の指導者になれるよう、つねに自分を磨いていく。

組織の盛衰―何が企業の命運を決めるのか

組織の盛衰―何が企業の命運を決めるのか (PHP文庫)

組織の盛衰―何が企業の命運を決めるのか (PHP文庫)

[内容]

今までされてこなかった、組織論にスポットを当て体系的に学問として捉える。



[感想]

組織の形そのものにスポットを当てるという展開は、なかなか啓発的な内容だった。豊臣家から企業まで同じ視点で捉えるというのは面白い。ただ、筆者も述べているように、体系的な学問として組織論を展開するため、実用的にはなりづらい冗長な部分もあったように感じる(特に第二章)。最も重要なのは第四章(組織の「死に至る病」)であろう。自分も来年から大企業に所属する身としては、組織の構成員として、組織に埋没せずに広い視点を持たねばと身の引き締まる思いだ。



[概要]

第1章 ケーススタディ

ケーススタディ1.豊臣家

成長期の猛烈社員は、天下を取ってからの組織には不要だった。

借金と先行投資の繰り返しが幸運にも破たんせず、全国統一した。

その後はゼロサム社会に。

人事圧力シンドローム(何とか事業拡大、成長し、禄を増やさないといけない)。



人事圧力シンドロームの解決策

1.成長から安定へ体質・気質転換

    中間管理職の反発大。鮮明な理念の創出が必要

2.成長継続

    市場開発、事業多角化

    豊臣家は市場開発(朝鮮出兵)を選び、滅びた。

    人事圧力下での事業拡大は大きな危険が伴う(何かをやる、という結論が出ているから。)

    成功可能性より、着手可能性が高いものが選ばれてしまう

    従来手法の繰り返し、成長体験への埋没へとつながる。



豊臣家を継いだ徳川家康は、成長体質・気質を否定する縮小均衡政策を取った。

新たな理念、「人格のための勤勉」を創出した。



ケーススタディ2.帝国陸軍

帝国陸軍は、徳川家下の非武装国家から、何の拘束も受けずに理想軍隊として誕生した。

忠誠心を高めるために専門教育機関を設立。

→軍隊以外では働けない専門家の共同体へと。

→卒業者は軍隊組織の拡大に生涯をかけた。



共同体化した組織

内部競争を少なくするために年功序列が徹底。

功績主義でなく、人格主義に。

与えられたテーマが各部局にとっての究極のテーマに。国全体の目的は考えなくなる。

軍縮を恨むようになる。



共同体化、機能低下の原因

1.成功体験(日露戦争)への埋没

2.環境への過剰適応

3.創造性の拒否、または排除

4.外部の人材を排除した「仲間ぼめ」に陥り、人材・技術・物資・資金を限定してしまう。



共同体化を防ぐには、さらに上の力を持った組織による「揺らぎ」が必要。



個の優秀さもマイナスにつながる。(総花主義につながり、組織が硬直性を増すため)



ケーススタディ3.日本石炭産業

最大の原因は環境への過剰適応。



世界的にエネルギーが流動化した。(石油・天然ガスへの転換)

エネルギーにブランドは付かないので、石油の方が安ければ一斉に石油に需要が移る。

しかし、政府保護のもとで発展し、巨利を博してきた石炭産業の労使は、モノ不足が医師不足の戦中戦後の環境に過剰適応していたため、国際的視野が欠落していた。

石炭産業は過剰人口の雇用という面でも過剰適応していた。

実際、石炭産業が蓄積してきた政治力は、衰退期でも巨大な利益を石炭産業にもたらした。

しかし、これも石炭産業を救えなかった。

石炭企業はどこも石油に乗り換えなかった。もし乗り換えていたら、現存の石油企業のどこよりも大きかったはず。



得意体質の強化に走る過剰適応性

人間も組織も同様で、環境の変化で危機的状況になると、これまでの環境で有利だった体質を一段と強めることで生き残ろうとする。

日本石炭産業の得意体質:政治的保護の獲得と地域的密着性、安価な労働力の大量使用



第2章 組織とは何か

組織の要素

1.構成員

2.共通の目的と共通の意思

3.一定の規範

4.命令と役割

5.共通の情報環境

    異なる情報環境が生まれ、異なる規範ができたとすれば、その組織は分裂している。



良い組織

1.大きな組織

    拡大は組織の本能的欲求だが、時に組織の没落と崩壊に繋がる。

2.固い組織

    高い帰属意識・情報共通性

    共同体の理想形

3.強い組織

    高い目的達成能力の高さ(意志決定+命令の徹底と実行

    機能体の理想形

これら三つは相互に矛盾する。



組織の目的に関する問題点

1.組織が作られた目的と、組織の目的は一致しない。

    例:住宅不足を解消するための住宅公団が、団地を一杯にすることを究極目的として、安い民間マンションの規制を訴えた。

    例:国家の繁栄と安全のための軍隊が、国家体制と国民生活を犠牲にして自己増殖に努める。



2.全体の手段が部分の目的になる



3.組織の目的と、組織構成員の目的の違い

    この二つが一致するのは、たまたま組織の目的達成が、構成員の目的達成手段となり得る場合に限られる。

    構成員の目的:経済目的、権限目的、対外目的

    組織への帰属意識の高い人は、組織全体の地位の低下には鈍感で、内部での比較優位だけれ満足する。

    それがしばしば、組織の改革を妨げる。



共同体(ゲマインシャフト)と機能体(ゲゼルシャフト

共同体とは

組織の発展拡大よりも、構成員の満足追求を目的とする。

理想は終身、安住、内的評価

衆目の一致する公平性と安住感をもたらす人物こそ、共同体のリーダーにはふさわしい。能力より人柄。

組織内評価による人事が望ましい。



組織体とは

外的な目的達成を目的とした組織

長期的永続性ではなく、負担の最小性こそ重要。

しかし、組織自体の目的(組織の拡大と強化)のために、非効率部分を抱え込んでいく傾向がある。

また、構成員の希望(安住)を無視すればかえって効率が下がることもある。

外的表現による客観的評価の人事(適材適所)が重要。(組織としての社会主観も排除しなければならない)



第3章 組織管理の機能と適材

i. トップ

1.組織全体のコンセプトを明確にし、その組織の目的を誤りなく伝える

2.基本方針の決定と伝達

3.総合調整



これらを実行する方法:言葉、行動(人事、情報ルートの選定)、雰囲気



ii. 現場指揮者

専門知識、判断力(短期的先見性と決断力)、勤勉さ、人心掌握力、敵を恐れぬ程度の勇気・トップを恐れるほどの臆病さ



iii. 参謀

能力は創造力によって決まる。

1.情報収集、分析を好み、先見性を養う

2.実現可能性のある創造力

3.企画に対する積極性(批判は簡単、慎重さを求めるのも簡単)

4.トップに拒否されても固執しない発想の軽さ



iv. 補佐役

トップの行う総合調整の事前処理、その結果の微調整

1.匿名の情熱

2.トップの基本方針の枠を超えない

3.絶対に次期トップではない



v. 負の補佐役

一種のチェック機能、トップの防壁。

有効な範囲内であれば、組織のマンネリズムを防ぐ。

トップへの批判を吸収する。





v. 後継者

次期トップを指名した途端に、「皇太子の側近」派閥(現状に不満あり)が形成される。

双方の対立が深まってしまう。

組織の地位を長く保つ確実な方法は、後継者を作らないこと。(そういう人物は無能者である場合が多いので用心)



第4章 組織の「死に至る病

偶発的な原因で大組織が滅亡することはあり得ない。自浄作用・修復機能が必ず働くから。

死に至る病機能体の共同体化、環境への過剰適応、成功体験への埋没



病1.機能体の共同体化

一旦共同体化が始まると、それを肯定する人事と資源配分が強化され、やがて正義になってしまう。

「社員のため」というフレーズで野心が隠され、抵抗し難くなる。

共同体化した組織の構成員は、安い給与で長時間働き、世間の同情と清潔な印象を得ようとする。

これは利己的な行動である。(自分の出世の為に組織の目的を無視している。)



組織倫理の頽廃(何が悪いか分からなくなる状態)が共同体化の原因



共同体化の尺度

年功人事、情報の内部秘匿、総花主義(集中の不能

滅びの美学が起こる(世間の非難を受けても我々だけはこれをやりとおす!ということ



企業が社員共同体に陥るのを防ぐには、実権、情熱を持った相当口うるさい社外重役を何人か加えるべき。



病2.環境への過剰適応

現在うまくいっている組織にも、常に「揺らぎ」を与えて、環境への過剰適応を防止しなければならない。



病3.成功体験への埋没

組織は個人よりもはるかに成功体験に溺れやすい。

なぜなら、一度成功した成功者が組織内の主流になり権威を持つからである。

成功体験者が権威をも知、成功体験分野が過大評価されると、組織全体が仮定を積み上げる「思考のアリ地獄」に陥ってしまう。



成功体験への埋没を防ぐためには、特殊事情を二度認めてはならない。



組織体質の点検

カネとヒトの不足や設備の不備を言い立てるのは、組織的欠陥を隠ぺいすることになり易い。

1.要素の点検

    個別に並べるのでなく、組織的な視点での比較検討が必要。

    新規技術やシステムが登場した場合、費用対効果のバランスを超えた過剰投資が生じやすい。

2.中身の点検

    効率検査。

    経営状態が良好な時期には、本社管理部門やスタッフ部門の検査が甘くなりやすい。

3.仕組みの点検(体質検査)

    現にある仕組みが、どのような理想を描いて作られ、どのような目標を持ったものかを明確に捉える。

    現にある仕組みが、どのような環境に対応して作られたものかを見極める。

    現にある仕組みが、どのような結果を生んでいるかを見極める。



組織気質の点検

構成員の士気、組織間の協調度、命令実行度、



倫理の点検





第5章 社会が変わる、組織が変わる

知価社会で、生産手段と労働力の分離の流れが逆流してきている。

今後は純粋消費者(非労働高齢者)が増え、消費者中心になりつつある。

・将来の経済成長よりも今日の生活の楽しさ

・効果な国内商品よりも国際競争による安価な商品

・公共事業よりも減税

・企業の先行投資を促す低金利政策よりも、利子収入を増加させる高金利政策





第6章 これからの組織

企業はまず三比主義(前年比・他社比・予算比)から抜け出し、量だけでない企業の目標を創造する必要がある。



「コスト+適正利潤=適正価格」の発想を捨て、「価格−利益=コスト」の発想へ



利益質の改善

利益質=外延性、継続性、好感度



人事評価=自己犠牲評価 or 能力・功績評価

東大講義録 文明を解く

東大講義録 ―文明を解く―

東大講義録 ―文明を解く―

[内容]

近代的視点を超えて人類の文明を観察し、その由来を正しく理解し記述する(前半)。近代工業社会が終わり、来るべき知価社会とはどんな世の中か(後半)



[感想]

なにやら豆知識的な話が多くて非常に読むのに時間がかかる。講義だから仕方ないのかもしれないが、本としては情報過多な気がする。歴史の流れから未来を予測するという類の本は今まで読んだことがないので、おもしろかった。奴隷解放のくだりとか、現在日本で働く大量の中国人、韓国人につながるものを感じた。こりゃ外国人参政権が実現する日も近いか!?規格大量生産が70年代でピークとは気付かなかった!確かに大型化も止まってるもんね・・・重厚長大産業は時代の中心ではなくなったと思うと、なんだか面白みの欠ける世の中だという気もするが、新しい価値、知価を探るという新しい時代になったのだと認識させられた。



[概要]

今日までの経済学は近代工業社会だけを対象にしている。



ピラミッド創設は自由民の自由参加、いわゆるボランティア活動だった。

墓ではない。なんの為に作ったか?⇒過剰生産をなくす、需要を創造するための公共事業である。

剰余生産がなくなれば階級は生まれない;ピラミッドは階級を生まないための政策



歴史の流れ

始代

↓土地改造技術、農業革命

古代

↓森林資源の枯渇から物不足、モノ離れ

中世



モノ不足→人口を減らす→生産力を維持するために周辺の未開な地域から移民を入れる→奴隷はやがて傭兵に、作業員になる→やがて奴隷も数が足りなくなって解放され、解放奴隷の自由民になる。





およそ民主主義を破壊しようとする者は必ず金銭汚職を言い立てる。



戦前の正義:勤勉、忠勇



戦後の正義:効率、平等、安全(自由と楽しみがない。)

→国是:経済成長、結果の平等、平和と清潔

→体制:官僚主義、業界協調、日米同盟

→文化:使い捨て、職縁社会、企業拡大

→危険な芽:怠惰と嫉妬の肯定

→知価社会への対応不能



産業革命はただ一回起こった;蒸気機関で動く大型機械の登場で起こった社会革命

この時に労働力と生産手段との分離が起こった。



フリーハンドの買い手の有利さ

世界的に資源余りの状況では、国土が狭くて資源のない国の方が有利。

世界中どこからでも一番安い資源を買うことができた。



70年代が近代工業社会のピーク

1.生産の大型化・大量化―規格大量生産

2.技術の進歩―大型化・大量化・高速化技術

3.国家の強大化―徴兵制、政府機能の拡大、「大きな政府

4.消費の均質・大衆化―客観的価値の信奉



その後はイラン革命ベトナム敗戦、石油危機などをきっかけに国家力、物財力は退廃を始めた。



1980年代に世界の先進国が近代工業社会から知価社会に入る、その時期に日本だけますます近代工業社会を強化する。



食糧とエネルギーは、価格弾力性が低いという意味では似ているが、結果は逆になる。

食糧が足りなくなると、最も貧しい消費者から食べられなくなる。

エネルギーが足りなくなると、最も贅沢な消費(先行投資)から脱落する。



日本での食糧安全供給には、健全な食糧の輸出生産地を確保する以外ない。



石油危機の次の年には必ず食糧危機が起こる。

石油値上がり→農薬・肥料値上がり→発展途上国では肥料が買えない→食糧危機→自然破壊





知価革命

量ではなく主観的満足を求める、主観性が登場する。

近代工業社会は規格大量生産を崇拝し、主観論を否定してきた。(マルクス、マーシャル、ケインズ然り)



原因

1.資源と環境のアンバランス

2.規格品の横行によるモノ離れ

3.コンピュータによる安価な多様化

4.主観的満足が重要に

5.経済と文化のグローバル化



知価の特性

価値は可変的、不測的、貯蔵付加



知価社会

・大企業にたいする金融もリスクが発生、生産手段や在庫の担保価値が小さくなる。

・多様な知恵の値打ちが、経済の成長と企業の利益、つまり資本蓄積の主要な源泉になる社会

・財よりも、むしろ経営者の能力や技術開発力が重要になってくる

・組織はヒエラルキーからネットワークへ

・有能で意欲的な人物(キーマン)には情報が集まり蓄積される。



好縁社会

・知価が主観である以上、主観に基づく共同体になる。

・情報共同体、消費共同体、楽しみ共同体

日本の「安心」はなぜ、消えたのか



[内容]

社会的問題の多発を人間の心に起因させるのでなく、社会学、仕組みという観点から解決策を探る。



[感想]

バリバリの文系の人が書いた本ということもあってか、やはりところどころ論理の展開に違和感を感じる部分はある。具体的に言うと、帰納法演繹法が入り乱れていたりするところ。

問題を心に求めるなというけれど、やはり心に起因させたくなるのが人情というもの。帰属の基本的エラーとかすっごく面白いな。確かに俺も「自分だけは物を考えてる」と思っていた時期があったな笑。みんなそう思っていたとは赤面モノだ。

信頼者会では積極的に相手を信じるべしとは、アレに似てるな。昔進化生物学の授業で習った、生き残りゲームで必勝の性格=単純な奴、に似てるな。単純な奴=最初は信じるけど、やられたらすぐやり返す、それでも相手が謝ったらすぐに信じること。最初に信じることで、信頼検知能力が磨かれるというのは納得だ、重要だな。

臨海質量の話は、お話としては面白いけど、問題解決法には結び付けにくそう。



[概要]

現代の日本社会が直面している倫理の喪失とは実は、倫理の底にある「情けは人のためならず」のしくみの喪失。



いくら国民に徹底した倫理教育を施してもいい国など生まれない、と歴史が示している。

例:ソ連、中国



そもそもの間違いは、教育で人間の心はいくらでも変えられるという認識:タブラ・ラサ(白紙という意味)。



本の学校のいじめ問題のカギは、「いじめをさせない」ではなく「いじめを許さない」環境作りにある。



日本独自の和の文化が日本人の愛社精神や滅私奉公を作り出したのではない。

反例:戦国時代の武士の自己顕示欲



実はそうした方がトクだから滅私しているに過ぎない(デフォルト戦略が滅私であるということ)。

日本の社会という「環境」が変わることで、生きるうえでの「戦略的行動」も変わり、その結果「日本人らしさ」のあり方も急速に変貌しつつある。



普通人の心にあるという自己高揚傾向が日本人にも実はある。



では、なぜ日本では多数派を選ぶことが無難なデフォルト戦略だと見なされるのか?

1.帰属の基本的エラー(人の行動を見ると、その行動の背景に「人の心」を求めてしまうこと。実は本心からの行動でないかも知れないのに。)

例:自分は嫌々仕事しているのに、他人を見ると滅私奉公だと思い込んでしまう

→2.予言の自己実現(思い込みが現実になる)



日本人は、日本人は集団主義的行動があるが自分だけは例外である、と考えている集団といえる。



アメリカ:信頼社会(見張りシステムがない為、信頼という基準が必要)

まず他人を信じることからスタートしなければならない。

不信をスタートにすると、不信の連鎖に陥る。

一般的信頼が高い高信頼者は、信頼性の観察眼を鍛えられる機会に恵まれ、失敗から学ぶことでさらに他人の行動を予測する能力が伸びるという、「正のスパイラル」になる

高信頼者は決して楽観的でなく、信頼性をシビアに観察している。何かあれば冷静に対応する。

低信頼者は信頼性の観察眼を磨く機会がないため、負のスパイラルに陥る。

信頼者会では多少の失敗にめげず、積極的に信頼していくことが必要



日本:安心社会(見張りシステムが安心を生み出す、信頼が必要ない、正直も必要ない

他の人のわがままを許せば、自分が責められるかもしれないという危機感から見張る。

もともと日本人は他社一般に対する信頼は低い。

このシステムが戦後日本の高度成長を支えた。

様々な社会問題は、日本が安心社会から信頼社会へうまく移行できていない歪みではないか?

安心社会では関係性検知能力(集団に波風を起さないこと)が重要となる。

安心社会は騙されない保険料として「機会コスト」を払っている



信頼性検知能力も関係性検知能力も数ある社会的知性の一つに過ぎない。



信頼者会への移行には、お説教は無意味。信頼できる環境作りが必要。

そのためには、教育もダメ(人によって違いが出る)、アメとムチもダメ(完璧に監視はできない)。



問題は、協力主義者と非協力主義者だけでなく、「日和見主義者」がいることを認識していないこと。

社会的ジレンマの多くは、どれだけの者が協力的・非協力的行動を選んだかによって、結果はガラリと変わる

その潮目となる比率を「臨界質量」という。





社会的ジレンマの解決には、最初から全員に働きかける必要はない。

世の中のほとんどは日和見主義者なので、臨界質量を超えれば、我も我もと問題は解決に向かう。



臨界質量を得るのに「アメとムチ」を用いる。

全体を監視するのではない、効果的に「アメとムチ」を用いてコストを抑える。



熱血教師の指導で、臨界質量を下げることができる



安心社会のマグレブ商人が信頼者会のジェノア商人に負けたのは、

・「機会コスト」のせい

ジェノア商人が公正な法制度を作り、正直な人を守ったから。



中国には統治する法はあったが、ローマのような民法がなかった。

アメリカも最初は安心社会、社会規模が膨れる19世紀後半に公正な社会制度を作ったことが、後のアメリカの繁栄を作ったとも言われる(ザッカー)

「法」が社会に代わり「安心」を提供することで、人々は他人と一緒に仕事ができるようになった。



信頼社会の基準:法制度によるネガティブ評価+評判によるポジティブ評価(ブランド)

インターネットのような開放的世界では、ネガティブ評価はごまかせるが、ポジティブ評価はごまかせない。

よって、よりポジティブ評価が重視されるようになる

ポジティブ評価が、情報の非対称性による市場のレモン化を防いでいると思われる。



これからの社会においても、評価情報を管理するサービスをいかに実現していくかがカギになるのでは?

何でもお上の監視・管理に頼るのは、信頼者会には不適合。





日本は信頼社会に移行するまで持ち堪えられないかもしれない!

安心社会の倫理と信頼者会の倫理はまったく違うもので、混ざり合うと救いがたい腐敗を生み出す。

例えば、武士道は正直よりも忠誠を重視する→市場倫理に反する。



そもそも利益を追求する商人は武士道(安心社会)からは否定される存在

石田梅岩による「石田心学」という商人道(悪いのは利益の追求そのものでなく、相手に利益を与えない一方的な事故利益追求である)

今こそ商人道を!

会社は毎日つぶれている

会社は毎日つぶれている (日経プレミアシリーズ)

会社は毎日つぶれている (日経プレミアシリーズ)



[内容]

双日を再建した社長が社長達に向けた、会社を襲うあらゆるリスクにいかにして対応するかという指南書。



[感想]

全編通して社長向けに書かれているが、社長の苦労を知る上では役に立つ部分もある。とにかく社長は大変だということが分かった。著者の西村氏は、一番大変な時期に社長に就任したわけで、それはそれは気苦労が大変だっただろうということは、想像に難くない。本としては、あまり面白くないが、潰れかけた双日の社長のお話と思えば心に響く部分もあるっちゃある。



[概要]

まず会社をつぶさない、いささかも衰退させないのが出発点。

社長は会社がつぶれる全ての可能性を考える。



スピーディーな対策は必要だが、原因を突かない性急で一方的な合理化政策は会社を疲弊させる。

社長の役割は、全員をその気にさせること。

合理化という痛みが何故必要かを理解してもらうこと。

改革疲れには、外部の空気(コンサルなど)に晒すことと、数値による表示。

小さな遅れ、不手際を見逃さないこと。



生涯雇用(幹部候補)と実需需要(スペシャリスト)の組み合わせが新しい価値を導く。



選択と集中により一番弱い細胞を摘出して全体のスピードアップを図る。



世界で受け入れられるには、自社商品で何ができるのか。

グローバルな人に訴える端的にわかりやすいキャッチフレーズは何か。



グローバル化は国内の(大手→中小)の流れを絶ったため、景気が地方へ拡大することはなくなった。

グローバル市場が世界の標準を決めるところであると認識せよ。

日本人の完ぺき主義はグローバルに強みになる。



リスク管理には、投資事業の進行中に、事業環境の変化に常にアンテナを張り、撤退を含め素早く対応する決断力が重要となる。

入口審査だけに力を入れがちだが、開始後の管理は甘くなりがち



数値成長のない成長もある。

しかしアナリストは端的な回答を求める。

安易な数値目標を口にしてはならない。それは会社を腐らせる。

一斉号令で社員が無理な事業を進めてしまう。



形式だけの現場訪問は意味がない

具体的なテーマを用意していく。



団体での活動で、自ら意図して有用な人脈を形成する。

積極的に意見を出していく。



社長は社会的問題が会社の信用を傷つけることを知っているが、事業部長は契約しか気にしない。



部下はあまり嫌な報告はしたくない。

「大丈夫」という報告ほど信用してはならないものはない

「何が大丈夫だったのか」が重要。

材料が足りなくとも、今日中に発表しなければならない。

内部告発は会社をつぶすほどの威力を持つ。

単なる訓示やコメントではいけない。



弁護士は専門性の合ったところで、適切な時に起用することが必要。



日本人は金銭コストには厳しいが、時間コストには甘い

「これは私の責任だから私が頑張って取り戻そう」という意識から、遅れが生じる。



「ややこしいこと」は商社が解決するよう求められる

順法制に疑いがあっても、顧客サービスのために「ややこしい」ことを請け負ってしまいがち

社長は心に愧じない、せめて人に愧じないという気持ちを持つべき。



社長は嫌なことから先にやるべし。



エンジン全開で力を出し切り、こだわりを捨て、燃え尽き、後任に席を譲るべし。



社外取締役の役目

1.社長の交替時期提案

2.経営判断が法令・定款に従っているか

3.各々の事業のリスクを最大限に検証



事故・事件が発覚したら、「スピード」と「徹底」に尽きる。



会社がつぶれないようにという重荷は社長以外には分からない。

予想どおりに不合理

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

[内容]

経済行動に大きく影響しているにも関わらず、これまで無視され誤解されてきた、人の不合理さを研究する行動経済学



[感想]

これを経済学と呼ぶかどうかはともかく、非常に面白かった。この本のキーワードは、相対性、一貫性、失うことに対する嫌悪、社会規範などになるかな。内容的には、以前読んだ『影響力の武器』と重複している部分が多かったが、こちらの実験の方がおもしろくて分かりやすい。ゼロコストの話や、社会規範の話は特に面白かった。会社が社会規範を重視するのは、現在の派遣切りになぜ人々が怒っているかを理解する一つのポイントになると思う。また、小さな違反行為に関する話も、いずれは社会人になり、違反を確実にさける上では非常に重要になる話だと思う。



[概要]


1章 相対性の真相

私たちは何でも比べたがるが、比べ易いものだけを比べて、比べにくいものは無視する傾向がある。

例えば、商品Aは特性1に優れ、商品Bは特性2に優れるとする。これでは比べにくい。

そこに、おとり商品A’(特性1が商品Aより少し劣る)を加えると、商品AとA’を比較し、全体の中で商品Aが優れているように錯覚する。



嫉妬や僻みは他人の境遇と比べるところから生じる。

小さな円が集まっている方へ移動すれば、相対的な幸福感は大きくなる。

人は持てば持つほど欲しくなる。唯一の解決法は、相対性の連鎖を断つこと。



2章 需要と供給の誤謬

人に何かを欲しがらせるには、それが簡単には手に入らないようにすればよい。

恣意に決めた値段・価値は一貫性を持つようになる(アンカーになる)

値札はアンカーではない。この値段で買おうと決めたとたん、それがアンカーになる。



ハーディング:他人が前とった行動をもとにものごとの良し悪しを判断して、それに倣って行動する。

自己ハーディング:自分が前にとった行動をもとに物事の良し悪しを判断する。



スターバックスの戦略ーどのようにアンカーを移したか

ほかのものとかけ離れた経験にすることで、安いコーヒーからスタバの高いコーヒーへとアンカーが移った。

(高そうな名前、見栄え、しゃれたコーヒープレスなど)



恣意的に喜ばしい経験やつらい経験にできる



過去のどこかで恣意的な判断をし、以来ずっと、最初の決断が賢明だったと思い込んで、それを基盤に人生を気づいているのか?

⇒なにをするにしても、自分の繰り返している行動に疑問を持つべき。

最初の決断に気をつける。



消費者が払ってもいいと考える値段は簡単に操作できる。

⇒需要と供給の理論はおかしい。

恣意の一貫性の枠組み内では、私たちが市場で見かける需要と供給の関係は、選考でなく記憶に基づいている。

長期的に見れば、需要への影響は、価格上昇に対する短期的な市場の反応をただ観察して得られる予想よりはるかに小さいはず。



自由市場の基本概念は、自分以上に相手が価値を見出している何かを売買することにより双方が利益を得る。

しかし、個々の満足度を反映しない取引が行われる可能性が高い。

⇒政府の役割が重要では?



3章 ゼロコストのコスト

たいていの商取引には良い面と悪い面があるが、何かが無料になると、悪い面を忘れ去り、無料であることに感動して、提供されているものを実際よりずっと価値あるものと思ってしまう。

なぜなら、私たちは何かを手に入れる喜びより、何かを失うことを恐れを重視してしまうから。



値段ゼロは単なる値引きではない。ゼロは全く別の価格

2セントと1セントの違いは少ないが、1セントと0セントの違いは莫大。



4章 社会規範のコスト

社会規範:友情、恩義、社会的つながり

市場規範:支払った分のものが手に入る、金銭的つながり



人は金より、お金の絡まない社会規範の下での方がより働くことがある。

例、ボランティアなら働くが時給30ドルだと働かない弁護士



お金が絡むと社会規範が消え、市場規範が支配的になる

一度消えると社会規範は戻りにくい

お金でなく、プレゼントなら社会規範は消えにくい。

プレゼントの値段を口にした時点で社会規範は消えさる。



お金について考えるだけで、経済学の予想するとおりに行動し、普段の社会的動物の振る舞いはしなくなる。



罰金制度は社会規範を消すため、長期的にはうまくいかない。

しかも、罰金制度を廃止した後も社会規範は戻らないため、最初より悪くなる。



会社は、顧客・社員を家族のように扱おうとする(社会規範)

しかし、その関係はずっと続かなければならない。

社会規範により、従業員は熱心で勤勉になり、順応力も意識も高まる傾向がある。

例:オープンソースのソフトウェア



近年の福利厚生の削減で、社会規範は崩壊しつつあるのではないか。



現金ではその金額の程度のことしかできない。

社会規範こそ、長期的な違いを生む力。



5章 性的興奮の影響

性的興奮でない状態では、興奮した時自分がどのように動くか理解できない。

自分がいかに「良い人」であろうと、情熱が自分の行動に及ぼす影響を甘く見ている

異なる感情の状態にある自分を理解する能力の欠如は、経験によっては解決できない。



性的誘惑に負けることを前提に、コンドームは必ず持参する(させる)。

誘惑に打ち勝つより、誘惑を避ける方が簡単。



冷静な状態と、熱くなった状態を理解し、その隔たりが生活にどう役立ち、どう堕落させるかを見極めなければならない。



6章 先延ばしの問題と自制心

この問題も、根っこは5章と同じ:違う精神状態のことを理解すべし。

圧力の大きさは、『外からの高圧的な命令>自分で意志表明する>自由に任せる』となる。

最善策は、自分から決意表明させること。



7章 高価な所有意識

3つの不合理な奇癖

1.自分がすでに持っているものにほれ込んでしまう

    外からの恣意的な決定を飲みこむのは、その決定が優れているからでなく、何かを手にした途端に愛着を持ち始める人間性の力。

2.手に入るかもしれないものでなく、失うかもしれないものに注目してしまう

    失うことに対する嫌悪は強い感情。

3.他の人は取引を見る視点も、自分と同じだろうと思い込んでしまう



・何かに打ち込めば打ち込むほど、それに対する所有感が強くなる。

・実際に手に入れる前に、所有意識が高まることがある。仮想の所有意識(ネットオークション、広告、おためしなど)



所有意識は物に限らず、思想にも当てはまる(支持政党、応援するスポーツチームなど)



どんな取引も、あえて自分と目的の品物の間にある程度の距離を置き、できるだけ自分が非所有者であるかのように考えるべき。



8章 扉を開けておく

無用の扉(選択肢)でも、消えそうになると残しておきたい衝動に駆られる。

特に選択肢があふれている現代社会では起こる問題。



無用の扉に気を取られて、本当に重要な扉(家族など)が閉じないように気をつけなければならない。

私たちに必要なのは、いくつかの扉を意図的に閉じること

無用の扉を開けておくと、本当に開けておくべき扉からエネルギーと献身を吸い取ってしまう。

決断しないことによる影響」を考えに入れる。

例、仕事探しに気を取られる内に、研究を軽視してしまった著者(俺と全く一緒!!)



9章 予測の効果

あらかじめ味がまずいと教えると、人々がそれに賛同する可能性が高まる。

ただし、知識が経験の前に来るときだけ効果があり、経験のあとに知識が来ても、あまり影響を与えない。

これはブランドや商品の信頼をき築くのにも重要。



ライミングステレオタイプ化された人は、そのレッテルに気付くと反応が変わる。



10章 価格の力

信念や予測は知覚に影響を与えるだけでなく、主観的・客観的な経験をも変化させる。



プラセボを働かせる予測は2つの仕組みで作られる。

1.信念(医者に対する信頼や確信)

2.条件づけ(慣れ、経験)



もし効果が一緒と分かっていても、健康のことになると安い薬を使う気になりにくい。



私たちは、値引きされた物を見ると、直観的に定価のものより品質が劣っていると判断し、実際にその程度のものにしてしまう



患者はみな処方箋をもらって帰りたい。その精神的必要性を満たすのは医者にとって正しいのでは。



11章 私たちの品性について その1

個人は、自分に都合の良いだけ正直になる。



フロイト『私たちは社会で成長するにつれて社会的美徳を内面化して自分のものにし、この内面化によって超自我の発達が促される。』



問題は、大きな違反行為のときにしか、超自我のモニターが反応しないこと。

人はチャンスがあればごまかすが、決して目いっぱいごまかすわけではない。

何か倫理思想を思い浮かべるだけで、小さな違反行為もしなくなる。

ただし、その宣誓や規則を思い浮かべるのは、誘惑の最中か直前でなければならない。



社会規範と同様、職業倫理が一度低下すると、元に戻すのは難しい。



12章 私たちの品性について その2

現金を扱うと、不正をしにくくなる


不正行為は、現金から一歩離れたときにやりやすくなる

例、代替貨幣、保険詐欺、ワードロービング、経費報告書、電子商取引



交換媒体がお金でないとき、不正の正当化の能力は飛躍的に増加する。

現金を使う時代の終わりが近付く今、これは認識されるべき問題だ。

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫


[内容]

父親が自分と同じ実業を目指す息子に、実際に宛てた30通の手紙。



[感想]

こんな父親がいたら、すごく頼もしいだろうな。父親って、いつまでも超えることのできない存在のように思える。自分が就職活動をしていて思うのは、父親がたどった路を教えてもらうことで、自分はゼロからやり直さなくとも、父の築いた路の続きから歩くことができるということだ。もちろん、人脈だとか資産だとか、そんなことじゃなく、知識・考え方だとかそういう間接的な意味でね。父は偉大だ。



[概要]

実社会に出発する君へ

常識、責任が実業界での最良の武器

努力をどのように成功に結びつけるか。



1通 あえて挑戦を

常識という基準が、無意味な挑戦と意味のある挑戦をわける。

勝っても負けても、試みることによって、それだけ成長できる。



2通 教育の設計

制度に不満を言うよりも、制度を巧みに出し抜いてやるといい!

今後十年間の訓練計画をすぐにでも綿密に立てるといい。

毎年一つずつ新しい学問をはじめる。

「読むことは人を豊かにし、話し合うことは人を機敏にし、書くことは人を確かにする」

20−30歳は学ぶ期間として、最も重要。

学問を中断しての旅を考えている学生のほとんどは怠け者。



3通 成功について

競争に勝つのは、必ずしも動きの早い人ではない。勝つのは過去の競争から学んで、その教訓を生かす人。

道徳心、熱意、勤勉さ、そして責任感は、毎日日常の中で保たなければならない。



4通 惰性的な生き方には

川の上で急速をとるときには、流れを避けて、注意深く場所を選ぶ。



5通 実社会での最初の日々

サービスが肝心。

しばらくは、足音を立てないように歩くこと。

仕事に喜びを見出すためには、適正、やりすぎない、達成感。



6通 誠実さの代価

他人を信用しなければならないときには、多少の知識、いわつる安全装置が必要。

・知らないひとについては、その背景を知るべき。

・サービスを個人的なレベルで売り込む

・人生のこの段階では、すべての試みを経験とみなすべき。

・真実を語らなかったと、決して人に言われないようにする。



7通 企業家とは何か

企業家とは偉大な想像力の持ち主。

人間性の偉大な観察者、研究者。



8通 経験の重みに代えて

経験不足を自覚している人は、まず、このかけている要素によって、目的達成の試みを抑制、あるいは阻止されるつもりはない、と決意する必要がある。

次に、与えられた課題を念入りに査定するための時間を惜しまない。

80%の人が、データ不足というより、データの間違った解釈によって、意思決定の間違いを犯す

解釈には、勘であっさり片付けるより、入念に思慮深く分析する方が、早く、高度に熟達する。



9通 部下との衝突

私たちが他人について「型破りな」性格というときは、たいていの場合、異なる見方や考え方でしかない。

他人の迷惑になるほど不愉快な、あるいは異常な癖でなければ会社を辞めさせる理由にはならない。

部下の効率を取り戻すため、1時間でできることの大きさ

君の1時間と部下の1時間は50ドルに相当、新たな人材を訓練するには5000ドル必要。

部下は貴重品。



10通 共同事業への誘惑

儲け話になると、肯定的な面は30分で全てあげられるが、否定的な面は見落とし、しばしば長年悔やむ。

新しい事業を思いつくと、実に巧みに製造・販売の問題を解決するが、資金の問題で頭が凍結する。

人の記憶は薄れやすい。会社を発足させた君の資金面での貢献が、いつまでも深い感謝の念と共に思い出されることはない。

共同経営者と全ての否定的な面について話し合うべき。



11通 結婚を気軽に考えないで

もし魅力的で、気品があって、頭が良かったら、あとは多少の欠点は多めに見るように。



12通 事業を拡大する上で重要なこと

大規模な事業の拡大は常に、ほとんど最初からやり直すようなもの。



13通 金銭感覚はどうなっているのか

会社の繁栄ぶりを示すことは大切だが、贅沢に見えたり。金を浪費する愚か者に見えたりしてはいけない。

正直で、地道な人たちが、純粋な友情を君に誤解されることを恐れて、控えめに距離を保っているのを見過ごすことのないように。

金をせがまれて貸せば友人はなくす。

もし友人の窮乏を知って援助が必要だと思ったら、自分から申し出る方がずっといい。

どちらかといえば金持ちのほうがいい。

金は上手に扱えば、人生の喜びは大きくなる。

賢い人は金持ちになれるが、人は金持ちになると愚かになることが多い。

金は使って楽しむべきもので、溜め込むものではない。



14通 講演は自信を持って

息継ぎの技術。

両手を書見代の両端にしっかり乗せると、緊張は取れる。

決して聴衆を見下さない

講演がうまくいくには、努力と準備の量。



15通 礼儀正しさにまさる攻撃はない

知識の次の武器はマナー。ただ、まわりの人々に対する心遣い。

よくある無作法は人の話をさえぎること。

話題がひとつ、「私」に限られている人も多い。

三つの身体的習癖:握力が強い、眼を見ているか、姿勢がいいか。



16通 銀行融資をとりつけるには

会社の買収に夢中になって、銀行の重要性を過小評価したのではないか。

銀行に好意的に検討してもらうには、提出書類を作成するときに、「連中が乗り気になることは決してない!」と覚悟してかかること。



17通 政府の検査官について

一般の通念に反して、政府は常識の通じるところである。

正義は力なり、だが、戦わないものには勝利はない。



18通 多角経営は会社を安定させるか

事業投資には、資金面の裏づけ、経営に必要な人材がいるか。

多角経営の利点:最初の事業の失敗に備えて。ひとつの事業の成長には時間がかかり、仕事が足りない。

ある種の事業で成功したからといって、他事業で成功するとは限らない。

いつでも経費を切り詰めて、逃げる準備をしておくこと。

会社を育てるときに、資金や人的資源に無理がかからないように。

多角化は基礎業界からの逸脱ではない。

会社を買うのでなく、その会社の経営法を知っている人材を買い入れる。



19通 読書の価値

他人の過ちから学べ。

他人と異なることは成功の必要条件のひとつだが、それを試みる人は少ない。



20通 効率的な管理とはなにか?

問題を認めること、失敗を認めること。

チームワークである。

聞き手がとりわけ強い関心を示す問題について、意見を求められることほど、人に誇りを感じさせるものはない



21通 人生の幸福とは

君の心を育てるのは君だけ。

人生の問題に挑戦する自由があることを知り、それを行使すれば、人生の幸福を勝ち取る勝算は大きい。

人生の合言葉は決断。

幸福は何かをすること。

身の上話でなく、心の持ち方で決まる。



22通 社員を解雇するとき

決意にいたった理由と、他の人が長期的に恩恵を受ける理由を、言葉少なく、静かに説明する。



23通 友情は手入れしよう

最も緊密で貴重な友情は常に育み、温める必要がある。

自分に及ばない友人は持たない。

親友は君の成功を、嫉妬心を交えないで喜べる人。

友情には手入れが必要。



24通 批判は効果的に

聞く価値のある批判は10%程度。

秘訣は、すぐさま批判者を評価すること。

批判はなるべく役に立つ、建設的なものにする。

慎重に言葉を選べば、批判の有害な部分は押さえられる。

毎日評価する方がいい。



25通 自分の財布の管理も計画的に

税引き前の給与はさっぱり忘れる。

必ず普通終身保険を選ぶ。



26通 常に備えよ

固定費を見直して、何であれ、実行が可能な限り削減する。

資金を調達できるように、無理な借り入れはしない。



27通 ストレスと健康

様々なリラックス方法:超越的な瞑想、バイオフィードバック、筋肉の弛緩、自己催眠など。



29通 生活のバランスを保とう

優れた組織には、あらゆる部門に優れた人材を配置。

有能なナンバーワンは視野が広い。

生活のバランスを保っている経営者を打ち負かすことは難しい。

成功者は、たいていの問題について知的な会話ができ、友達を持ち、心身健康、あらゆる面で中庸。